隠相撲 番外編1



皆さん、こんにちわ。

ご無沙汰しています、渡邉しずかです。

今日は隠相撲の開催日ではないんです。

じつは、大相撲の開催と合わせて、みんなでこっそり開催して居るんです。

それで、皆さん不思議に思いませんか?

隠相撲の会場は、普段は何をしているのかって。

実は、みんなが本番に向けて、稽古をしに集まってきて居るんです。

当然、私も、双子の妹のしずねも同じで、学校が終わったら用事がない限り顔を出しに行きます。



今日の稽古はエリカさんが面倒を見てくれています。

「ふぐっ!」

「オウッ!」

私は力を振り絞ってエリカさんの胸にぶちかましを仕掛けます。

「そら、そんなもんカ!?」

「ぐぅっ……」

エリカさんが私に檄を飛ばしますが、私はエリカさんを押し切れません。

身体はもう汗と土が混ざり合って泥だらけです。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

「ソリャ!!」

「ぐうっ!!」

エリカさんの反撃が始まりました。

私に敢えて両差しのハンデをつけて、両上手で私を捕まえ、一気に吊り上げようとしてきます。

本番ならまだ堪える体力も残っているのですが、既に25番をこなした私に、

スタミナは残っていませんでした。

「うあっ……」

私はあえなく吊り上げられ、簡単に土俵を割ってしまいます。

その瞬間、腰砕けになって尻餅をついて倒れてしまいました。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

「スタミナが足りナイ! しずか、出直してコイ!」

「はいっ!」

「……でも、力強さは合格点ネ! 今日はもう限界だろうから、ここらで止めときナ!」

「ま、まだ出来ます!」

「ダメね! やる気は買うけれど、今日はもうオシマイ! 他の子も稽古するんだからネ!」

「は、はい……」

私はちょっとしょんぼりしながら、稽古を終えました。



毎回毎回、必ず反省材料はあります。

今回は、スタミナが尽きた時点で身体の感覚が消えていってしまう点です。

諦めまいとするのはいいですが、やっぱりそこから力を出せなければ、接戦はものに出来ません。

私は反省をしながら、風呂場に向かいました。

さすがに泥だらけで帰る訳には行かないため、風呂場とサウナが設置されて居るんです。

私はシャワーで泥を全部落として、今日はまだ時間がある事を確認してサウナに入ろうとしました。

「あ……」

「あ……」

声が合わさりました。

稽古を終えていたしずねと同時に入ろうとしていたんです。



サウナの中はちょっと広めです。

私としずねはバスタオルを捲いた状態でじーっと黙ったままです。

先場所での死闘の所為で、二人っきりになると未だにギスギスしてしまっているんです。

汗がダラダラになったとき、不意にしずねが立ち上がり、私の目の前に仁王立ちしました。

「……この前は負けたけど……今度は負けないからね」

「……私だって負けないよ……」

私もゆっくりと立ち上がると、しずねと睨み合います。

しずねが何をしたいのか、もう分かっています。

私はそっとバスタオルをとって全裸になりました。

しずねも同じです。

サウナがなぜ広く出来ているか……それは、こうやって対決する人の為なんです。

ルールは既に決まっています。

壁がロープで、使うのはプロレス技の関節技、三本勝負で技を掛け合うんです。

これは既に私としずねの間では暗黙の了解になっています。

ここでやると汗も倍かくので良いスタミナ強化の練習にもなります。

「……いくよっ……」

「……こいっ……」

まずはマワシを付けずに相撲です。

お互いに左四つの状態で背中で腕を組み合います。

「んっ……」

「……くっ」

互いにまずは足を仕掛けあってテイクダウンを狙いますが、

相撲の時ほど集中していないからか稽古の後でヘトヘトだからか、ビリビリの感覚はありません。

サウナの暑さも手伝って汗がダラダラと流れてきます。

「はぁ、はぁ、はぁ……それっ!」

「はぁ、はぁ、はぁ……うあっ!?」

しずねがあっという間に巻き返しました。

私はしずねのペースに飲まれているのか、巻き返す事が出来ず閂で返そうとしますが、

腕に力が入らず、抵抗になりません。

「そらっ!!」

「ぐあっ……あっ……ああっ……」

しずねの強烈な鯖折り。

私は力無く膝をついてしまい、テイクダウンです。

先攻はしずねです。

「このっ……やろっ!!」

「うああああっ!!!」

千秋楽の時の仕返しのつもりなのか、しずねは足四の字を決めてきました。

私としずねの足が絡み合い、私の両足に激痛が走ります。

「くぅぅっ……」

「どう? ギブする?」

「ノーッ……まだまだ……」

私はゆっくりとロープ代わりの壁を目指します。

ですがしっかりと決まった足四の字は、動く力すら奪うような感じです。

「くっ……くっ……」

「ほら、お姉ちゃん、ギブしたら?」

「ノーッ! ……このっ……」

「ほらっ!」

「くあぁぁっ!!」

「ギブアップ!?」

「ああぁぁーっ!! ノーッ!!」

私が起きあがって逃げようとするたびに、しずねは足の締め付けをきつくして動きを封じてきます。

壁は、まだまだ遠いのに、私は早くも動けなくなってしまいました。

「ほらほら、ギブアップ!?」

「ああぁぁーっ!! ノーッ!! ノォーッ!!」

「ふふん、やっぱり逃げられないみたいね……まずは私の先勝よ!!」

「くああぁぁぁーっ!! あーっ!! あぁーっ!! ……くっ……ギブアップ!!」

堪らず、私はギブアップしてしまいます。

呆気なく一本先取されてしまいました。

ですがダメージが大きく、私は横倒しで足を押さえてダウンです。

「はぁ、はぁ……」

「はぁ……はぁ……お姉ちゃん、今日は止めておいたら? スタミナ切れじゃん」

「ふ、ふざけないでよ……そんなことない!」

私は虚勢を張って立ち上がると、一気にしずねに襲いかかりました。

「うぐっ……あっ……くあっ……」

しずねが苦しそうに悲鳴を漏らします。

私が選んだのはコブラツイスト。

お互いの身体が絡み合い、汗も混ざり合います。

「ギブアップ?」

「ノーッ……くぅぅっ……」

「はぁ……はぁ……・これでもっ?」

「あぁぁっ……ノーノーノーッ……うぅぅん……」

しずねも我慢強いのでなかなかギブアップしません。

ですが、ロープにも逃げられないようで、先ほどから完全に無抵抗です。

「はぁ、はぁ、ほら、ギブアップしたら?」

「はぁ、はぁ、ノーッ……こ、こんな程度……くぅぅっ……」

「はぁ、はぁ、あら、そう! いつまで我慢できるかな?」

「くぁぁっ……あぁぁぁっ……はぁ、はぁ、はぁ……ギブアップ……」

さすがに耐えきれなかったのか、しずねは素直にギブアップしました。

私が技を解くと、ヘナヘナと尻餅をついてしまいます。

「はぁ、はぁ、なによ、しずねこそ、もう止めておいた方がいいんじゃない?」

「はぁ、はぁ、や〜だね! こんどは私の攻撃の番だもん!」

そう言ってしずねは私に組み付いて、仰向けに倒しました。

そして、決めてきたのは私の予想できない技でした。

「えっ? ちょ、ちょっと……うあっ……」

私の悲鳴が漏れます。

しずねが決めてきたのは肩固めでした。

ですが、今知られている肩固めではなく、

相手の身体の上に乗って足を絡めて完全に動きを封じ込めるタイプの肩固めです。

「うあっ……あっ……はぁっ……あっ……」

たまらず私は苦しげに声を漏らしてしまいます。

「ギブっ?」

「ノーッ……うくっ……あっ……あっ……」

「……そろそろ、よくなってきた?」

「そ、そんなこと……うんっ……んっ! あっんっ……」

ここで私はやっとしずねの狙いに気づきました。

この技は、裸で絡み合ったら胸と胸が重なり合って、しかもあそこも広げて重なり合うような形です。

当然、逃げようともがけばもがくほど、苦しくて気持ちよくなるっていう悪循環なんです。

「うあっ……はっ……あっ……くぁっ……あっあっ……あんっ……」

「んっ……ほら、ずいぶん気持ちよさそうじゃない? ギブアップは?」

「あっ……ノーッ……あっあっ……やっんっ……んあっんあっ……」

「はぁ、はぁ、ギブアップ?」

「あっあっ……はぁ、はぁ……ああっああっ!! ああんっ!! ああっ!!

 だ、だめぇっ!! はあぁぁぁぁんっ!!! ……ギ、ギブアップ……」

私は抵抗虚しく呆気なくイカされてしまいました……。

しずねの勝ちです……。

「はぁ、はぁ……千秋楽の借り、返したよ……」

「はぁ、はぁ……くっそぉ……この技本番で使ったら許さないからね・・・」

「ほうほう、そんなに気持ち良かったんなら、もう一度やってあげようか?」

「はぁ、はぁ、遠慮しておく……もう、今日はだめだぁ……」

私はやっとの思いで身体を起こします。

しずねが勝ち誇った顔をしていますが、今日は完敗です。

「ねぇ、お姉ちゃん」

「んん?」

「今度さ、布団の上でプロレスごっこしない? プロレスなら負けないような気がしてきた!」

「……受けて立ってやろうじゃない!」

私はちょっとカチンと来て売り言葉に買い言葉で受けて立ってしまいました。



これが、しずねの罠と気づくのは、プロレスで対戦した後だったんです……。





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