隠相撲 番外編2





しずねの挑発に乗ってしまった私こと渡邉しずかですが、しずねの狙いは私の思いもしない事でした。

でも、それは後々わかったことだったんですけど……。





プロレスごっこで対戦をする日のことでした。

私としずねは同じ部屋で寝泊りです。

勉強机も並んでいて、ベッドは二段ベッドを使っています。

お互い一番近いライバル同士とは言え、四六時中険悪な空気になっている訳ではなく、

一緒に遊ぶときは遊んでいるし、相談があるときは二人でじっくり話し合ったりもしています。

ですが、この部屋ではプロレスごっこは出来ません。

そこで、私としずねは両親の寝室を利用していつも対決していました。

両親の部屋は畳の部屋で、十畳ある広い部屋です。

畳が傷むと暴れていたのがばれる為、足元には布団を重ねて敷いておきます。

そして今日、私としずねはプロレスで対戦する為に、布団のリングの上で睨み合っていました。

お互いお気に入りの水着、私は白のワンピース水着、しずねが赤い競泳水着です。

「………………で、なんで桃ちゃんまでいるわけ?」

「え? いちゃダメ?」

そうなんです。

何故か今日は、私としずねに混じって、桃ちゃんまでスクール水着完備で混ざっているんです。

「ダメじゃないけど……」

「ゴメン、お姉ちゃん……つい、うっかり、口を滑らせたら桃ちゃんもやるって……」

「うん、あたしもプロレスごっこやりたい!」

私はこめかみに指を当てました。

微妙に頭痛が……。

でも、桃ちゃんともプロレスごっこをした覚えが何回もあるし、まあいいか。

「……それならそれでいいけどさ……しずね、ルールはどうするの?」

「う?ん、リーグ戦がいいかなって思っているんだ。やっぱり一対一の方が楽しいし……」

「そうね……それがいいかも……」

私がしずねの意見に賛成したとき、桃ちゃんが不思議そうに手を上げました。

「…………ちょっと待って。それって、誰かが連勝しないと決着がつかないとおもうのですけど……

 しずかちゃん、しずねちゃん、連勝できる自信ある?」

「……ない……」

「……ない……」

私としずねの返事は完璧に同じタイミングでした。





「と、言うわけで参加して欲しいのです」

「です……って、そういう理由で水着だったんですか? てっきりプールに行くものだとばかり……」

普通はそうだと思います……。

という訳で、理不尽な呼び出しを受けてしまったのは、瑠璃子ちゃんでした。

私としずねは隠相撲で初めて会い、それ以来の縁ですが、

桃ちゃんと瑠璃子ちゃんは同じ高校に通っているため、大の仲良しだそうです。

瑠璃子ちゃんはプールに遊びに行くつもりだった所為か、青い三角ビキニを着用です。

この姿でプロレスごっこは、確かにちょっと大胆かも……。

「大丈夫だよ、瑠璃ちゃんだって学校で私と制服のままプロレスごっこしているでしょ?」

「わーわーっ! こういうところで言わないで!」

瑠璃子ちゃんは顔を真っ赤にして桃ちゃんの口を塞ぎました。

普通の反応はこうだろうなぁとシミジミ実感してしまいます。

という訳で、四人になった私たちはじゃんけんをして順番を決めました。

その結果、

一回戦で私と桃ちゃん、

二回戦でしずねと瑠璃子ちゃん。

三回戦で私と瑠璃子ちゃん、

四回戦でしずねと桃ちゃん、

五回戦で瑠璃子ちゃんと桃ちゃん、

六回戦で私としずね、

になりました。

私としずねは運良く連戦を避けられましたが、桃ちゃんと瑠璃子ちゃんに連戦がしわ寄せです。

瑠璃子ちゃんに至っては、本当に今日は厄日状態かもしれません。





そんな訳で、まずは私と桃ちゃんの対戦です。

相撲ではよく対戦していますが、プロレスごっこで対戦するのは久しぶりなのでちょっとドキドキします。

相撲と違ってしょせんはじゃれ合いレベルなので、真剣勝負とは程遠いのですが、

最後の勝ち負けだけは真剣勝負ですから、やっぱりドキドキしてきます。

今回のレフリーは、これまたジャンケンに負けた瑠璃子ちゃんです。

ゴングはおもちゃのゴングを使用します。

カーンという変に乾いた音がなり、瑠璃子ちゃんが「ファイト!」と手を交差して試合開始です。

私はちょっとワクワクしながら桃ちゃんに力比べを誘います。

まずはお互い肩で組んでロックアップです。

「むっ……」

「くぅ……」

お互い相撲で鍛えた足腰ですから、早々にはビクともしません。

ですが、私と桃ちゃんで力比べをしていると、いつまで経っても動けそうにないので、

先に私が組み手を崩して桃ちゃんをヘッドロックに捕まえました。

「うぐっ……」

「えいっ!」

「うぁぁっ……」

私が締め付けを強めると、桃ちゃんがガクリとひざを落とします。

ここがチャンスとばかりに、私は桃ちゃんをうつ伏せに倒して、

身体を反らせる様にしてヘッドロックを掛け続けます。

「うぁぁぁっ!!」

桃ちゃんが苦しそうに悲鳴を上げます。

布団の真ん中で決まったこの技は、凄く地味だけど結構苦しくて、ロープには非常に逃げにくい技です。

「桃ちゃん、ギブアップ!?」

「ノーッ!! ああぁぁーっ!!」

桃ちゃんが悲鳴を上げます。

ですが、逃げられない為足をバタバタと暴れさせて抵抗をする程度です。

私は、桃ちゃんをたっぷりと苦しめてから、ようやく開放しました。

「き、きいたぁ……」

桃ちゃんはダメージ大で、うつ伏せにダウンです。

本当は追撃したいんですけど、私たちのプロレスごっこは将棋と一緒です。

先手と後手の攻防なので、攻めるのも順番なんです。

「ほら、桃ちゃん、早く立たないと追撃しちゃうよ」

私は桃ちゃんのショートヘアをそっと掴むと立ち上がるように促します。

「くぅぅっ……負けるかぁっ!」

「うあっ!?」

ここで桃ちゃんは私に両足タックルを仕掛けました。

私は呆気なくテイクダウンされてしまいます。

「おかえしだぁっ!」

「うぁぁーっ!!」

ここで桃ちゃんが仕掛けてきたのは逆エビ固めです。

私の背中に桃ちゃんのお尻がしっかりと落ちています。

「しずかさん、ギブアップ?」

「ああぁぁーっ!! ノォーッ!!」

ほぼ完璧な決まり方に、私は悲鳴を上げて必死に耐えます。

ですが耐えてばかりもいられません。

何とか逃げないと、腰に大きなダメージを負ってしまいます。

「くぅぅっ……」

私は匍匐全身でロープ代わりの布団の端を目指します。

ですが、桃ちゃんは中々ロープに逃がしてくれません。

「しずかさん、ギブアップしますか?」

「ノォーッ!! ……まだまだっ……」

「……うりゃっ!」

「ああぁぁーっ!! ……くっ……も、桃ちゃん性格悪い!

 序盤なのにそんなに本気で締める上に、駄目押しするっ!?」

「へへん、この際だからしちゃいます!」

「あっあっあっ……」

桃ちゃんは私を引きずってリングの真ん中に戻してしまいます。

更に逆エビ固めを解くと、今度はキャメルクラッチを仕掛けたんです。

「この際だから、こうだっ!!」

「うあぁぁーっ!!」

「ギブアップですか!?」

「ノーノーノーッ!!」

私の身体が再びエビぞりになって固定されます。

この技はロープに逃げられないので、見た目以上に苦しい技です。

私は悲鳴を上げながら必死に堪えます。

「はぁ、はぁ……どうやら、あたしの勝ちですね!」

「あぁぁっ……そ、それは気が早いんじゃない?」

「そうですかっ?」

「うあぁぁぁっ……」

口では強がっていても、私の腰には着々とダメージが加算されていきます。

たっぷりと苦しめられてから、私はようやく解放されました。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「はぁ、はぁ、はぁ……くぅぅ……」

私と桃ちゃんは早くも息が上がり始めました。

一つ一つの技を本気で締めているので、自然と呼吸は乱れます。

ですが、呼吸を乱す事とスタミナがなくなることは別問題です。

私が反撃に選んだのは、コブラツイストでした。

この技はやられると苦手ですが、仕掛けるのは得意です。

桃ちゃんはがっちり決まったコブラツイストに堪らず悲鳴を上げます。

「桃ちゃん!?」

「うあぁぁっ……ノォー……」

「粘るわね……でも、さっきのキャメルクラッチのお返しっ!」

私は普通のコブラツイストではなく、顔面もフェイスロックで決めるタイプに変化させました。

「桃ちゃん、ギブアップ!?」

「ああぁぁーっ!! ……ノォーッ!! ああぁぁーっ!!」

これは相当効いている様で、桃ちゃんは決められていない腕を振って必死に耐えています。

「桃ちゃん、ギブアップ!?」

「ノーッ!! ああぁぁーっ!! ノォーッ!!」

私は桃ちゃんの抵抗が消えるまで、たっぷりと苦しめてから技を解きました。

「くぅぅ……」

桃ちゃんは堪らず前のめりに倒れてしまいます。

「桃ちゃん、大丈夫!?」

瑠璃子ちゃんが心配そうに覗き込みます。

ですが、桃ちゃんのダメージは大きく立ち上がれません。

「瑠璃子ちゃん、ダウンカウントをとって」

「えっ?」

「特別ルールなの。もし、技を解かれて10カウント立っても反撃できなかったら追撃してもいいの」

「わ、わかりました……ワンッ……ツーッ……スリーッ……フォーッ……」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

カウントが進みますが、桃ちゃんはやはり立ち上がれません。

「ファイブ……シックス……セブン……エイト……ナイン……テンッ!!」

「さぁ、桃ちゃん、時間切れよ……」

「はぁ、はぁ、はぁ……や、やだぁ……」

私は桃ちゃんに止めを刺すために捕まえました。

桃ちゃんは逃げようとしていますが、さっきのコブラツイストのダメージが大きくて動けないみたいです。

だったら私は、桃ちゃんがギブアップし易い技を掛けてあげないと……。

私は桃ちゃんの足を捕まえると、交差させて自分の股間で押さえつけます。

更にコブラツイストの要領で上半身を締め上げて、

脱出困難な複合関節技、リーガルストレッチの完成です。

「うあぁぁぁっ……」

「桃ちゃん、ギブアップ!?」

「あーっ……ああぁぁーっ……ノォーッ……」

「桃ちゃん、もう逃げられないよ! ギブアップしたらっ?」

「ノーノーッ……うあぁぁ……」

この辺りの根性はさすが桃ちゃんです。

ですが、リーガルストレッチでは片手一本しか自由になりません。

先程のコブラツイストのダメージもあるのに、耐え凌ぐのは至難の業のです。

「桃ちゃん、ギブアップ?」

「はぁ、はぁ、はぁ……あぅぅ……ノーッ……うぁぁーっ……」

「……桃ちゃん?」

「はぁ、はぁ、あぁぁーっ……ノォーッ!!」

「さすが、桃ちゃん……はぁ、はぁ……なら、これでもかぁ?っ!!」

「ああぁぁぁーっ!! ああぁぁーっ!! あっあっ……ギブアップ、ギブアップッ!!」

とうとう桃ちゃんの残されていた手がタップを繰り返しました。

おもちゃのゴングが打ち鳴らされます。

「ウィナー、しずかさん!」

「よっしゃっ!」

「はぁ、はぁ、うぅ……軽くあしらわれたぁ……」

「あはは、前の場所じゃ負けちゃったからね。借りは返したよ!」

「でも悔しい?っ!!」

桃ちゃんはうつ伏せに倒れたまま駄々を捏ねるように地団駄を踏みます。

そんな桃ちゃんにしずねが優しく声をかけます。

「大丈夫よ、桃ちゃん。まだ挽回できるんだから」

「えっ?」

桃ちゃんが不思議そうに見上げます。

しずねが真剣な表情で私に目線を向けます。

「……三本勝負よ!」

「無茶言うな!!」

私は思わず即ツッコミを入れてしまいました。

「あはは、冗談冗談。そうじゃなくてさ、最後の技、桃ちゃんに教えてあげれば?」

「……なんで?」

「折角こうやって集まっているんだからさ、千秋楽の対策がてらにした方が良くない?」

「……ん……まぁ、確かに……」

確かにしずねの言う通りかもしれない。

千秋楽では3本目まで勝負がもつれる事は多々あります。

折角だから、技の練習会にしてもいいのかも……。

「私も今の技、教えて欲しいです」

瑠璃子ちゃんがそっと手を挙げてます。

「そうねぇ……よし、じゃあ、みんなで練習しようか!」

「桃ちゃん、仕返ししていいって!」

「はいっ! 仕返ししますっ!」

「ちょ、ちょっと! そ、それってなんだかずるいんじゃないっ!?」

という訳で、対戦後は何だが大混乱になってしまいました。

ともかく私の一勝、桃ちゃんが一敗です。





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