さて、プロレスの三回戦です。
たっぷりと休憩を取って、今度は私と瑠璃子ちゃんの対戦です。
さっき私のリーガルストレッチと、しずねの卍固めを教わって、
完全に使う気満々の瑠璃子ちゃんは、連戦の疲れを全く感じさせません。
今度のレフリーは桃ちゃんです。
「うーん……」
そのレフリーの桃ちゃんが、眉毛を八の字にしてうなっています。
私は何かと思って「どうしたの、桃ちゃん?」と聞きました。
「ねぇ、しずねちゃん……これって、最終戦の稽古代わりのプロレスなんだよね?」
「うん、そうだよ」
「それならさ、最終戦と同じルールにした方がいいんじゃない?」
「・…………そうねぇ…………」
もっともなご意見でした。
そんな訳で、私は高校の授業で使う柔道の帯を4本持ってきました。
私としずねのマワシはありますが、文字通り「人のフンドシで相撲をとる」訳にはいかないのです。
私としずねは柔道を習っていたので、白帯と黒帯が二本ずつ。
これをマワシ代わりにすることにしたんです。
いつものマワシより頼りありませんが、それでも意外としっかりと結べるんです。
どうせここには女の子しかいないんですから、ちょっと面積が減っていたってへっちゃらです。
私は黒帯を、瑠璃子ちゃんは白帯をマワシにして向かい合いました。
「はっけよーい……」
桃ちゃんの仕切りで私と瑠璃子ちゃんが構えます。
「のこったっ!!」
「ふっ!」
「おっとっ!」
まっすぐ突っ込んできた瑠璃子ちゃんに対して私は八双跳び!
「あっ!?」
「もらったっ!!」
引っかかった!
私は瑠璃子ちゃんの横に回り込んだ形で、がっちりとコブラツイストを極めました!
「うあぁぁっ!!」
瑠璃子ちゃんが堪らず悲鳴を上げます。
「瑠璃子ちゃん、ギブアップ!?」
「ノーッ!! くうぅぅっ!!」
ここは瑠璃子ちゃんが意地です。
私が極めきれないように、筋力で態勢を極めきれないようにしています。
仕方なく、私は一回技を解きます。
しかし、瑠璃子ちゃんもやっぱり闘争心はあります。
すぐに私に向き直り襲いかかっています。
「くっ!!」
「むんっ!!」
私と瑠璃子ちゃんは正面で向かい合うと、一気に右四つに組み合いました。
ここは私の組み負けです。
「はぁ……はぁ……やるぅ……」
「はぁ……はぁ……まだまだですよぉ……」
瑠璃子ちゃんは得意の左上手に力を入れます。
「くっ……」
さすがに不利を感じ取り、何とか腰を落とそうとしますが、瑠璃子ちゃんの左上手は強烈です。
しかも帯のマワシがやたらと食い込みやすくって、どうしても腰を落とせません。
「たあああっ!!」
「くあああっ!!」
瑠璃子ちゃんの左上手投げ!!
腰を落とせなかった私は、呆気なく転がってしまいました。
瑠璃子ちゃんが素早く私を横四方で押さえ込みます。
「くっ……くっ……」
私は何とかブリッジをして逃げようとしますが、瑠璃子ちゃんの押さえ込みはそうとうなレベルです。
私は足をバタバタとさせますが、上半身は全く動けません。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
押さえ込みの状態の降着。
汗がじっとりとにじんできます。
その瞬間、瑠璃子ちゃんが動き始めました。
私は汗で滑る所為で瑠璃子ちゃんの動きを止められません。
瑠璃子ちゃんはスルスルと動いて、私のマウントポジションを取ってしまいます。
「それっ!!」
「ぐっ……」
瑠璃子ちゃんの腕ひしぎ!
私は腕をフックして必死に堪えます。
「なら、こっちっ!!」
「えっ!?」
瑠璃子ちゃんが一瞬で動きました。
たった今まで上半身に絡んでいた瑠璃子ちゃんが、あっという間に私の右足を捕らえました。
開脚式の膝十字固めです。
「あああぁぁぁーっ!!」
堪らず私は悲鳴を上げてしまいます。
これはかなりきついです!!
「しずかちゃん、ギブアップ!?」
「ノーッ!! ああぁぁーっ!!!」
私は堪らず暴れて悶絶して悲鳴を上げてしまいます。
このままじゃ負けちゃう!!
私は堪らず必死に暴れていると、不意に気づきました。
この状態のたった一つの返し技……。
迷っている暇はありません。
私は瑠璃子ちゃんの足を取ると、クロスして脇に抱えました。
「えっ!?」
この反撃は予想外だったのでしょう。
瑠璃子ちゃんは驚きの声を上げながら”うつ伏せ”になってしまいました。
「おりゃあああっ!!」
「きゃあああああっ!?」
突然痛みが逆転です。
私は何と瑠璃子ちゃんの足を絡め取り、サソリ固めで切り返したんです。
「瑠璃ちゃん、ギブ!?」
「ああああーっ!! あああぁぁーっ!!」
瑠璃子ちゃんは動く事が出来ません。
技自体は緩いのですが、不意打ちで極まった大技は、精神的に一気に消耗してしまいます。
「瑠璃ちゃん!?」
「あーっ!! ああぁぁーっ!! ノーッ!! ああぁぁーっ!! あっあっ……あっ…………ギ、ギブアップ!!!」
瑠璃子ちゃんは耐えきれずギブアップしてしまいました。
「はぁ、はぁ、はぁ……やったねっ……」
私は軽くガッツポーズです。
「はぁ、はぁ……ま、まさかこんな返し方が……」
さすがに瑠璃子ちゃんは驚きを隠せません。
「瑠璃ちゃん、いまそんなに極まっていなかったよ?」
「えっ!? うそっ!? だって……」
掛けられている方はどうやって極められるかが分からない。
だからこそ、技のプレッシャーがあるんです。
「でも膝十字は本当にやばかったよ。せっかくだから、返し方教えてあげるね」
「はいっ!」
「……しずね以外!」
「言うと思ったわよ!!」
完全に蚊帳の外だったしずねがちょっとむくれながら言いました。
これで、私が二勝〇敗、瑠璃子ちゃんが〇勝二敗です。
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