今のところ勝率は私が二勝〇敗でトップ、二連敗をしてしまった瑠璃子ちゃんは最下位。

この後のしずねと桃ちゃんの勝負でまた左右されます。

今度のレフリーは私の番です。

といっても、最終戦と同じ形なので私の出番は仕切りだけでしょうが……。

「しずねちゃんなら、ここ最近連勝だし、勝ち目ありだね!」

「言ってなさい。勝ちを譲ってあげていただけなんだから!」

二人とも柔道の帯をマワシ代わりにしただけの全裸姿で、

ちょっと憎まれ口を叩きながら仕切りに入ります。

確かにしずねは先場所桃ちゃんに寄り切りで敗れています。

その前の場所の対戦も桃ちゃんの上手捻りで土俵に転がされています。

つまり、ここ最近は桃ちゃんの方が優勢なんです。

もちろん、いつも接戦になっているのは変わりませんが……。



「手を下ろして、待ったなし……」

私の合図で二人が構えます。

最終戦は土俵の外に出すか降参させるかなので、いつもの立ち合い以上の変化が起こります。

「……はっけよーい……のこった!」

「ふっ!!」

「てやあっ!!」

「うあっ!? ……ぐっ……うぅ……」

立ち合い、悲鳴を上げたのは桃ちゃんです。

しずねは、今まで誰もやらなかった立会いを敢行しました。

真っ直ぐ組み付きにきた桃ちゃんより低く飛び込み、そのまま飛び付き式フロントチョークスリーパー。

ノアの秋●選手が使う技です。

しずねが、こんな変化を企んでいたなんて……。

全く予想できませんでした。

「桃ちゃん、ギブアップ?」

「……うくくっ……ノォ……」

桃ちゃんはギブアップを拒んでいますが、これは必殺の威力を持ちますから苦しいはずです。

私は桃ちゃんが落ちないか心配で顔を覗き込みます。

桃ちゃんの表情は苦しそうに歪んでいますが、虚ろではありませんでした。

まだ落ちるほどではないようです。

「さすがに粘るわねぇ……速攻を狙ったんだけど……」

「うぐぐっ……早々に負けてたまるか……」

桃ちゃんは何とかしずねのフックを外そうと試みますが、

しずねが決着を狙う技が早々に外れるわけがありません。

桃ちゃんはたっぷりとスタミナを奪われた後、ようやく首を抜く事が出来ました。

ですが、しずねがガードポジションを取っている為、桃ちゃんは安易に攻め込めません。

「はぁ、はぁ、はぁ……やったなぁ〜……」

「はぁ、はぁ、ちぇ……落ちなかったか……」

二人とも息を荒げながら隙を窺います。

しずねは桃ちゃんにマウントを取られないように膝を立てて、

桃ちゃんはそのしずねの両膝に手を当ててしずねのカウンターの腕十字か三角締めを封じています。

どちらが有利とはいえない状態ですが、ちょっと高度な攻防です。

「はぁ、はぁ……それじゃ、あたしも取って置き! それっ!!」

「えっ!? きゃああああっ!!!」

桃ちゃんがしずねの両足を脇に抱え込むと、

そのまま顔から布団に突っ込むように反転してうつ伏せになりました。

なんと、一瞬にして逆エビ固めの完成です!

「どうだぁっ! しずねちゃん、ギブアップ!?」

「うぁぁっ!! ノーッノーッ!!」

これは切り返し技術としては高等の部類に入るかもしれません。

まさかの逆転を許したしずねは悲鳴を上げながら必死に耐えています。

「しずねちゃん、ギブアップ!?」

「ノーッ!! ぎゃ、逆エビ程度でギブなんかするかぁっ!!」

エビ反りの状態で逃げられないしずねが言っても説得力はないけれど……。

ですが、この桃ちゃんの反撃はかなり使えると思っていいとも思います。

今は皆ガードポジションからいかに攻め込むかを思案しているなかで、これは結構奇襲になります。

桃ちゃんはしずねの腰にたっぷりとダメージを与えてから、ようやく開放しました。

うつ伏せに倒れたしずねに、桃ちゃんは更に攻め込みます。

しずねの足をクロスして、そこに自分の足を挟みこんで自分はブリッジをして顎を捉える

……鎌固めの完成です!

「うあぁぁっ……ああぁぁーっ……」

「どうだっ!?」

「ノーッ……くぅぅ……ノォーッ!! ああぁぁーっ!!」

桃ちゃんのブリッジは見事で、顎のロック、足のロック共に完璧です。

しずねは苦しそうに手をもがきますが、ロープが存在しないルール……耐え凌ぐしかありません。

「しぶといなぁ……これでもっ!?」

「くぁぁぁっ……ノーッ……ノォー……」

それにしても桃ちゃんはこう言った所がさすがです。

基礎筋力である背筋が強いから、ブリッジが全く崩れないんです。

こうなってくると、しずねは苦しい展開です。

「ギブ!?」

「……うぅ……ノォー……」

「よぉーし……」

しずねの抵抗が段々消えてきました。

どうやらスタミナを根こそぎ奪われたようです。

桃ちゃんは技を変化させようと一旦鎌固めを解いて、しずねを立ち上がらせます。

でも、ここに油断がありました。

「せやあっ!!」

「きゃんっ!!」

しずねは容赦なく右手を桃ちゃんの股間目掛けて振りぬきました。

桃ちゃんは堪らず前かがみになってしまいます。

そのタイミングに合わせて、しずねは桃ちゃんのわき腹から組み付きました。

「おりゃああっ!!」

「あああぁぁぁーっ!!!」

桃ちゃんの悲鳴が響き渡ります。

しずねの大逆転のアルゼンチンバックブリーカー!

桃ちゃんは逃げ場がなく苦しそうです。

「桃ちゃん、ギブアップは!?」

「ああぁぁーっ!! ノーッ!!」

本来は仁王立ちするこの技を、しずねは自分のダメージも考慮して膝立ちで仕掛けています。

足を暴れさせて逃げようとする桃ちゃんですが、しずねの態勢が安定していてはほとんど抵抗になりません。

桃ちゃんの抵抗が徐々に弱まっていきます。

「桃ちゃん?」

「ああぁぁーっ……ノォーッ……ああぁぁーっ…………あぁーっ……

あっあっ……くっ…………ギブッ!! ギブアップ!!」

とうとう桃ちゃんが陥落しました。

しずねが技を解くと、桃ちゃんは力尽きたようにうつ伏せに倒れてしまいます。

「勝負あり! 勝者、しずね!」

「よっし!!」

勝ち名乗りを受けるしずねは小さくガッツポーズです。

しずねは確かに乱暴な手段を使いましたが、確かに隠れ相撲ではどれも非常に有効な戦法になります。

そういった意味ではしずねの完勝だったかもしれません。

「はぁ、はぁ、はぁ……くぅ……こんな戦法があるなんて……」

桃ちゃんはダメージが大きそうで、なかなか起き上がれません。

「そうよねぇ……卑怯だけれど、どっかの誰かさんも使った手だものねぇ?」

カチン!

千秋楽の事、まだ根に持っているな……。

私がカチンとしている間に、瑠璃子ちゃんが真剣な表情で言いました。

「でも、この手はやっぱり有効ですね。ちょっと卑怯ですけど、やっぱり効果はあるわけですし……」

「うん……やっぱり女の子でも痛いものは痛いし、卑怯だけどやっぱり使ったほうがいいのかなぁ?」

桃ちゃんも股間攻撃肯定側に回ってしまったようです。

「まぁ、まずはアルゼンチンの掛け方を教えてあげる。股間攻撃の是非の議論は、その後でいいんじゃない?」

「そうですね」

「じゃ、教えて教えて……」

と、三人は早速技の練習に取り掛かります。

これで桃ちゃんは〇勝二敗。

しずねが二勝〇敗……。



どうやら残り2戦……荒れそうです。







隠相撲 topへ



inserted by FC2 system