隠相撲 6




今度は桃ちゃんと瑠璃子ちゃんのライバル対決……しかも今回の勝敗だけ見れば、〇勝ニ敗同士の対決。

なんと最下位決定戦なんです。

さすがにこの状況で負けられないと意地になる桃ちゃんと瑠璃子ちゃん、

ちょっとただでは済まなそうな雰囲気がしています。

お互い白帯がマワシ代わり、まるで千秋楽で勝ち越し負け越しの土壇場で向き合っているくらい空気が張り詰めています。

私は今回行司役ではないので、まだマシですが、二人を仕切るしずねは気が気じゃなさそうです。

「二人とも、準備はいい?」

「もちろん!」

「こっちもです!」

「分かった……手を付いて、まったなし……」

桃ちゃんと瑠璃子ちゃんが構えます。

この立ち合いは注目です。

体躯はほぼ互角。おそらく力もほとんど互角です。

桃ちゃんの得意な左下手、瑠璃子ちゃんは得意な左上手を取れるかが勝負のポイントですが、

それはあくまで相撲の話。

千秋楽ルールでは立ち合いから何が起こるか分かりません。

組むか、避けるか、引っ掛けるか。

相撲に持ち込むか、寝技に持ち込むか、立ち技に持ち込むか。

ありとあらゆる可能性を考慮して、最終的に自分の選んだ立ち合いの一手。

どうでる? 桃ちゃん、瑠璃子ちゃん……。

「……はっけよい!」

「ふっ!」

「やあっ!!」

しずねの合図で桃ちゃんと瑠璃子ちゃんが同時に立ち上がります。

仕掛けたのは二人ともフェイント!

桃ちゃんが横に八双飛び、瑠璃子ちゃんが引っ掛けで左に避けています。

本当は間抜けた光景になるはずだったんですが、この二人はそうはなりませんでした。

「ふっ!」

「くっ!」

「あっ!? このっ!」

「ぐうっ! ……くっ……」

桃ちゃんは八双飛びの着地の瞬間に瑠璃子ちゃんにぶちかまし、マワシを狙いました。

側面を取られていた瑠璃子ちゃんは咄嗟に身体を布団の土俵に投げ出し、

桃ちゃんに飛びつきの三角締めを狙います。

ですが、桃ちゃんも並外れた反射神経でぶちかましの起動を修正、三角締めを潰してマウントを狙います。

布団に叩き付けられた瑠璃子ちゃんはちょっと声を漏らしましたが、すぐにガードポジションを固め、

さきほど見せた桃ちゃんの逆エビ固めを防ぐ為に抱きつきました。

これが、立ち合いの立った数秒の間に行われたんです。

やっぱり二人のポテンシャルは並外れています。

「……はぁ……はぁ……んっ……」

「……はぁ……はぁ……くっ……」

二人の息が乱れ始めました。

千秋楽のルールでも、グーで殴るのは反則です。

桃ちゃんが選んだ戦法は抱きつかれたままですが、瑠璃子ちゃんの頭を押さえ込み、

スタミナを消費させる事のようです。

ですが、瑠璃子ちゃんもただやられてはいません。

自分から身体を揺するようにして、重なった胸同士を擦り合わせています。

どちらが不利といったら瑠璃子ちゃんの方ですが、

桃ちゃんもこの状態を続けるにはリスクが高い状態です。

「んっ!」

「うっ!?」

ここで桃ちゃんの右足が瑠璃子ちゃんのガードを越えました。

状態はハーフガード。

こうされると、胸の位置がずれて瑠璃子ちゃんの反撃の効果が薄れてしまいます。

「くっ……くっ……」

「……んっ……」

瑠璃子ちゃんは何とか状態を戻そうと身体を捩りますが、今度は桃ちゃんがそうはさせません。

「やっ!!」

「あっ……」

今度は桃ちゃんの左足がガードポジションを越えました。

このままだと瑠璃子ちゃんがマウントポジションを取られてしまいます。

「んっ……」

「くぅっ……」

マウントを取られては堪らないと、瑠璃子ちゃんは必死になって桃ちゃんにしがみ付きます。

桃ちゃんはじっくりと瑠璃子ちゃんを引き離そうとしていますが、

狙いはあくまで瑠璃子ちゃんのスタミナ。

瑠璃子ちゃんが必死になればなるほど、不利な状況になる事を承知しているようです。

このままじゃ瑠璃子ちゃんのジリ貧です……。

ですが、切り返し方もちゃんと瑠璃子ちゃんは承知していました。

「はぁ……はぁ……やっ!」

「くっ……はっ!!」

「わっ!?」

遂に桃ちゃんがマウントポジションを取ったと思った瞬間、

瑠璃子ちゃんは解いた両手を桃ちゃんの足の下に潜り込ませ、一気に肩ブリッジをしたんです。

桃ちゃんの身体はあっけなく瑠璃子ちゃんの上から転がり落ちます。

この返し方は予想していなかったのか、桃ちゃんが動きを止めてしまいます。

この一瞬に瑠璃子ちゃんが桃ちゃんの足を絡め取りました。

クロスヒールホールドです!

「あああぁぁぁーっ!!」

「桃ちゃん、ギブアップ!?」

「ノーッ!!」

桃ちゃんの悲鳴が響き渡ります。

これはかなりがっちりと極まったようです。

桃ちゃんは必死に外そうとしていますが、なかなか外れないようです。

「桃ちゃん!?」

「ノーッ!! ギブなんかしないっ!!」

「……えいっ!!」

「ああぁぁーっ!!」

瑠璃子ちゃんもやっぱり容赦ありません。

勝てるうちに勝たなければ自分が負けてしまう。

桃ちゃんはそんな相手だから……。

でも、桃ちゃんもやられっぱなしで諦めるほど、楽な相手じゃありません。

「こんにゃろぉーっ!!」

「きゃあああーっ!?」

なんと、自分が痛いのを我慢して、瑠璃子ちゃんにヒールホールドで反撃です。

「瑠璃ちゃん、ギブアップ!?」

「ノーッ!! 桃ちゃんがギブでしょ!?」

「あたしはしないもん!!」

「あたしだってしないもん!!」

あらら……何だかUインターの様相を呈してきちゃいました。

この我慢比べは桃ちゃんが両足、瑠璃子ちゃんが片足を代償にした我慢比べですが、

互いにリスクが高すぎます。

二人の勝負がこれで終わるわけないのに……。

「せりゃあっ!!」

「あっ!?」

ここで桃ちゃんがクロスヒールから抜け出しました。

どうやら瑠璃子ちゃんの極め方が緩くなっていたようです。

千載一遇のチャンスに桃ちゃんは必死に瑠璃子ちゃんの足を絡め取ります。

ヒールロックで極めていた足を絡めなおし、強引に足四の字固めを仕掛けました。

「ああぁぁぁーっ!!」

今度は瑠璃子ちゃんの悲鳴が上がります。

「瑠璃ちゃん、ギブアップ!?」

「ノーッ!! ああぁぁーっ!!」

正規の極め方ではなかったにせよ、意外としっかり極まったようで、

瑠璃子ちゃんはかなり苦しそうな表情です。

桃ちゃんは計算高く、返される可能性を考えて腰を浮かせずに、身体を横倒しにして逃げ難くしています。

あの態勢はひっくり返されそうに見えますが、実は一番返され難い態勢なんです。

仰向けだと勢いをつけることが出来ますが、横倒しでは勢いをつけられないからです。

「瑠璃ちゃん!?」

「ああぁぁーっ!! ノーッ!! ぐぅぅ……やああああっ!!!」

「うわっ!? ああぁぁーっ!!」

なんと、瑠璃子ちゃん、ひっくり返しちゃいました。

今度は桃ちゃんが悲鳴を上げます。

絶対ひっくり返せないと思ったのに……。

「くっくっ……」

「……くあっ……」

桃ちゃんが必死に足を外して、ようやく足攻めの攻防が終わりました。

互いにダメージは深刻のはずです。

「くぅ……」

「うくっ……」

ですが……いえ、やはりと言うべきでしょうか……桃ちゃんと瑠璃子ちゃんは自ら立ち上がりました。

意地の張り合いをしている二人です。

そんな二人が「痛いから」と言って立たなかったら、それはすなわち「負けた」と同じ……。

「ぐっ!」

「むっ!」

二人が手四つに組み合いました。

てっきり相撲の組み手に行くかと思いましたが、成る程、ケンカ四つの二人です。

安易に組みに行っても組み手争いが必至。

ならば、まずは優位に立つ為の力比べが必要ということのようです。

「くっ……くっ……」

「むっ……んっ……」

お互いおでこを重ねあって押し合っています。

首がどちらに傾くかで大きく戦況が変わりますから、この力比べの意味は大きいはずです。

「やっ!」

「うくっ!」

瑠璃子ちゃんが身体を大きく揺すりました。

一気に押し込まれる危険もありましたが、上手くバランスをコントロールして頭を左に振る事に成功。

これで相撲の組み手では瑠璃子ちゃん得意の左上手が引けます。

逆に桃ちゃんは左下手を引くにはちょっと苦しい態勢です。

両差しになれば別でしょうか、瑠璃子ちゃん相手にそれは難しいはず……。

「やっ!!」

「むんっ!!」

互いに手四つをやめて帯を取りました。

組み手は右四つ、瑠璃子ちゃんの組み手です。

ですが、二人とも同時に寄り合いに入りました。

これは桃ちゃんの仕掛け。

この距離なら瑠璃子ちゃん得意の左上手投げを封じ込めるからです。

でもこの態勢は二人とも得意な態勢……自分の組み手にしている瑠璃子ちゃんが若干有利ですが、

その差は僅かなもの。

予想通り、胸を重ね合った状態で二人の動きはピタッと止まってしまいました。

「ノコッタノコッタノコッタ!!」

「うぐっ……くっ……」

「んくくっ……」

二人とも動きません。

力が拮抗している上に、先ほどの足関節の攻防で、余裕はもうほとんど無いはず。

二人ともこの寄り合いで決着を狙っているハズです。

「ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」

「くっ……くっ……」

「うっ……んっ……」

次第に二人の表情が苦しそうになってきます。

帯の食い込みが次第に辛くなってきたようです。

確かにいつものマワシより食い込みやすいし、裸で抱き合っているような状態なんですから、

感じ始めても仕方がないです。

ですが、これも隠相撲ではいつものこと……。

ここからがどう動くかがポイントの一つ。

H技に持ち込むか、それとも真っ向で向かうか、態勢自体から強引に逃げるか……。

「ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」

「くっ! んぐっ! うんっ!」

「あっ! くっ! ああっ!」

桃ちゃんが仕掛けました。

真っ向勝負の捻り込む様な寄りです。

瑠璃子ちゃんは対応が遅れました。

桃ちゃんの帯を吊り上げて抵抗していますが、ねじ込みをまともに受けてしまっています。

踏ん張ろうと開いていた股間に食い込み帯がきつく、腰が次第に浮き始めています。

「ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」

「ぐっ! んっ! くっくっ!」

「あっ! はっ! あっあっ!」

瑠璃子ちゃんの足が徐々に後ろに下がっていきます。

力の入る四つ相撲です。

桃ちゃんの強引な、捻り込む様な寄りでとうとう瑠璃子ちゃんが土俵際まで追い込まれました。

「ノコッタノコッタノコッタ!!」

「くっ……くぅぅっ……」

「んっ……あくくっ……」

この状態になってはもう瑠璃子ちゃんに対抗する術はありません。

土俵際の攻防ですが、完全に桃ちゃんが優勢です。

ここで瑠璃子ちゃんが反撃できることっていったら……。

「このっ!!」

「うんっ!」

そう、縦褌の攻防しか無いんです。

瑠璃子ちゃんは桃ちゃんのお尻越しに縦褌を掴んでいます。

一気に食い込みをきつくされ、桃ちゃんは落としていた腰が浮いてしまいます。

「おかえしっ!」

「きゃんっ!」

桃ちゃんも当然縦褌で反撃です。

この勝負ならまた条件は五分になります。

「ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」

「あっ! はっ! あっあっ! ああっ!」

「はっ! あっ! あっはっ! はあっ!」

壮絶な吊り合いです。

瑠璃子ちゃんには最後のチャンスと言っても過言ではありません。

桃ちゃんも勝つにはここで引き下がる訳にはいかないはずです。

多分帯の食い込みは、お互い相当きつくなっているはず……。

「ノコッタノコッタノコッタ!!」 ノコッタノコッタノコッタ!!」

「あっ! あっ! んくっ……くあっ…………やああああっ!!」

「はっ! んっ! あっはっ……あっ…………ふああああっ!!」

吊り負けたのは……瑠璃子ちゃんでした。

完全に足が宙に浮かんでしまい、力無く垂れ下がってしまっています。

「くっ……くっ……」

「あっ……はぁ……あぁ……」

でも、桃ちゃんは一向に吊り出そうとしません。

まるで、力の差を見せつけるかのように……。

「……瑠璃ちゃん、ギブアップ?」

「あっ……くっ……ノーッ……」

「ノー? 本当にぃ?」

「あっ……あっ……」

「くくっ……ほら、ギブアップは?」

「あっ……あっ……あぅ……あっ………………ま、参った……ギブアップ…………」

「はい、瑠璃ちゃんの負け!」

「きゃんっ!」

桃ちゃんは瑠璃子ちゃんに降参させた上で、吊り出しました。

瑠璃子ちゃんには屈辱のフィニッシュです。

「勝負あった!」

しずねが二人を分けます。

「はぁ、はぁ、はぁ……へん、あたしの勝ち!」

「はぁ、はぁ、はぁ……くそぉっ!」

桃ちゃんはこれ見よがしにガッツポーズ、瑠璃子ちゃんが両手で毛布を叩いて悔しがります。

「こないだギブアップしても放してくれなかったお返しだよ!」

「うぅー……今度はお返しするんだから!!」

……っていうか、いつも二人が対戦するとこんなノリになっちゃうんだね……。

これで桃ちゃんの一勝二敗、瑠璃子ちゃんお〇勝三敗。

そして次は二勝通しの私としずねの対戦です。



汗だくで威張り散らす桃ちゃんに、本当に悔しそうに涙目で睨み付ける瑠璃子ちゃん。

どこか似ている気がします。

私としずねの関係に……。





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