隠相撲1


大相撲が女禁制であるというなら、

女相撲は男子禁制と言って良いでしょう。

でも、女相撲は実は「隠相撲」と呼ばれて、

大相撲が行われる日程と同じく、人目に触れないようにひっそりと行われているのです。



もちろんコレは限定された観客にしか見られないものです。

観客は圧倒的に男性が多いのですが、中には女性もいらっしゃいます。

選手は当然「関取」の名前を関しますが、

人数はそんなに多くないため、段位は幕内と十両しかありません。

年齢はだいたい13歳から35歳くらいまでの方がいらっしゃいます。

プロの扱いでは無いため、未成年、学生の参加も認められます。

ただし、隠相撲には大相撲とは対局のルールがあります。

それは「体重制限」です。

上限、65キロ以上は参加が認められないんです。

つまり、中量以上の参加は出来ないんです。



あ、申し遅れました。

私は「渡邉_しずか」。

いま高校2年生の16歳です。

身長167センチ、体重51キロ、スリーサイズは88,65、90です。

隠相撲に参加してから3年で前頭6枚目。

一応スピード出世ですけど、今の幕内のレベルって大混戦なんです。

レベル的に勝ち越しをするのがやっとの状況……。

でも、まだまだ強くなって見せます!





今日は初日です。



対戦相手は前頭筆頭の「前園 明菜」さんです。

明菜さんは大学2年生でバレーの選手、私より20センチも背が高いんです。

体重はリミットの65キロ。

体格では勝ち目はありません。

でも私だって、みすみす負けるつもりはありません。

勝ち目はただ一つ、明菜さんの懐に潜り込み、低い姿勢で押していく事。

元々、私は四つ相撲が得意です。

一方の明菜さんは右の上手を引くと右の上手投げが強さを発揮しますが、

懐に潜り込んでしまえばこちらのものです。

私は気合いを入れながら花道から土俵に向かいました。



土俵の上では既に取り組みは中入りを過ぎて終盤戦です。

土俵の控えに私はどっかりとあぐらをかきます。

別にあぐらの必要は無いんですが、こちらの方が私は気合いが入るんです。

前の取り組みが終わり、私は呼び出しを受けてゆっくりと土俵に上がります。

ちなみに土俵の上は男子禁制と謳っていますが、

行事さんと呼び出しさんだけは男性が行います。

これだけは女性が行うと、ただのおばさんの金切り声にしか聞こえません。

私に続いて明菜さんも土俵に上がりました。

やっぱり私より身体が大きいから迫力があります。

土俵入りの所作を行い、東西から塩を捲きます。

何度か仕切りを行って、時間いっぱい。

私と明菜さんが開始線を挟んで向かい合います。

「……勝ち気がはやっているわね……墓穴を掘るわよ?」

「油断していていいんですか? 足下すくいますよ?」

一瞬だけ言葉を交わすと、私と明菜さんの拳が同時に開始線を叩きました。

「はっけよい!!」

一瞬遅れて行事さんの声が聞こえます。

立ち合いは一瞬です。

明菜さんは左のつっぱりで私と距離を開けようとしましたが、私は明菜さんのつっぱりをかいくぐり、

懐に潜り込み明菜さんのマワシを捕らえました。

完全に脇を差した万全の態勢……のはずでした。

「ぐっ!?」

私を待っていたのは、明菜さんの右肩の押っつけでした。

明菜さんの両脇を差したにもかかわらず、私はあごか上がった苦しい状態になってしまったんです。

明菜さんは閂で私の動きを封じ込めます。

「くぅぅ……」

私は懸命に腰を落としながら寄りで明菜さんを攻めようとしますが、明菜さんの身体は全く下がりません。

やむを得ず腰を落として明菜さんの隙を探ろうとします。

その瞬間でした。

明菜さんの両手が私のマワシをがっちりと捕らえたんです。

しまった!

思った時にはもう既に時遅しです。

私は完全に明菜さんに組み止められた形です。

「くっ!_くっ!」

「うっ……くっ……」

私の足がジリジリと後退していきます。

明菜さんも私が逆転の技を狙っていると分かっているからか、慎重に攻め込んできます。

……まずいです。こんなじっくり攻められたら、反撃が出来ないです!

「ノコーッタノコッタノコッタ!!」

行事さんの囃し声が繰り返されます。

私は対した抵抗も出来ず、土俵際まで追いつめられてしまいました。

私は必死になって土俵の俵に足をかけて、少しでも重心を前に掛けて必死に残します。

でも、どんなにじらしても明菜さんはかなり慎重です。

ここまで粘れば大抵隙が生じるものなんですが、明菜さんには全く隙が生まれません。

「うっ……くっ……あっ……」

次第につま先が限界を迎えつつあります。

「ぬっ……くっ……はああああっ!!」

「……ひっ……くっ……うああああっ!!」

明菜さんが全体重を私に押しつけました。

上手くタイミングを合わせればうっちゃりも可能ですが、態勢が悪すぎます。

明菜さんは右肩一つで私の動きを100%殺してしまったのです。

私は全く反撃も出来ず、寄り倒されてしまいました。

「勝負あった!!」

行事さんの声が決着を伝えます。

私の完敗です。

「はぁ、はぁ、はぁ……くっ……」

私は悔しさを噛み殺しながら身体を起こします。

「はぁ、はぁ、はぁ……やるじゃない……随分腰が重くなったわね」

明菜さんはそう言いながら手を差し出してくれました。

私はその手を取りながら立ち上がります。

互いに東西に別れて礼をして土俵から降ります。

明菜さんは勝ち名乗りを受けますが、私は背中を向けて花道を戻ります。

不思議なもので、相撲を取った相手とは気持ちが繋がるような感じがします。

明菜さんの堂々とした姿は「まだまだね」と悠然と語っている様です。

でも私の気持ちも絶対伝わっているはずです。



「次は負けません」





渡邊しずかの成績

初日_〇勝一敗



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