隠相撲 十一日目
十日目を過ぎて五勝五敗。
ようやく星が五分に戻りました。
危うく連敗街道を突き進むところでしたが、ニ連勝で挽回。
おまけに難敵のあげはさんを破っての連勝です。
ここで更に三連勝となればもっと波に乗れます。
勢いを掴む為にも今日は勝っておきたいところです。
今日の相手は小結の山木芳子さん。
25歳の美人OLさんで身長155センチ、体重48キロ、スリーサイズが83、58、86。
三役の中でも一番小柄な方です。
髪の毛はポニーテールに纏めている方で、目元がパッチリとしていて年齢より幼く見えます。
ですが、取り口は小兵力士らしくスピードが命の取り口です。
大柄な他の三役を相手にしても、腰をしっかりと落としながら素早い仕掛けを展開して、何回も金星を奪っている強者です。
私との戦績は私の二勝五敗。
組み止めたら私の勝ち、組み切れなかったら私の負けです。
現在芳子さんの戦績は八勝二敗。
優勝戦線は完全に隆美さんとエリカさんの全勝ロードに任されてしまっているため、
芳子さんは意地でも二敗でついて行きたいところでしょうが、私だってこれ以上黒星を増やす訳にはいきません。
呼び出しを受けて、私と芳子さんが土俵に上がります。
互いに蹲踞をして塵を切ります。
明らかに私より小さな体躯の芳子さんですが、
その姿は堂々としており私と同じくらいの体格があるのではないかと錯覚するくらいです。
清めの塩を撒き最初の仕切り。
私がゆっくりと仕切りを試したのに対して、
芳子さんは私を一切見ることなくゆっくりと確認するようにして最初の仕切りを終えました。
私は動じることなく仕切りを止めました。
芳子さんが相手と呼吸を合わせないのはいつものことです。
芳子さんはいつも最後の仕切りで初めて相手を睨みます。
そこまではずっとエネルギーを内に溜めて、最後に爆発させる。
つまり、今の芳子さんは極限の集中状態って言う事です。
二度目の仕切り。
ここでもやはり芳子さんは私を水に自分の身体の具合を確かめるように仕切り線につけた拳に体重を乗せて、
また立ち上がってしまいました。
私も集中するために、芳子さんとは違う自分のペースで仕切りをしておきます。
最後の仕切り。
仕切り線の前でサガリを分けて、蹲踞をして向かい合います。
このときに、初めて芳子さんは私を睨みつけました。
闘志に溢れた目線が私を突き刺しますが、私も真っ向から受け止めます。
「時間です……手を下ろして……」
私はゆっくりと構えに入ります。
対して芳子さんは、素早くと構えに入っています。
私は両胸にピリピリとした感覚を覚えてながら、両拳で仕切り線を叩きました。
「はっけよいっ!!」
私と芳子さんが同時に立ちます。
ですが、立ち合いは瞬発力に勝る芳子さんが上です。
私は両胸の感覚から芳子さんが押しに来ると察してぶちかましで一回弾こうと思っていましたが、
芳子さんの踏み込みの方が速く、私は両胸を取られ押されてしまいます。
「ノコッタノコッタノコッタ!」
「ふんっ!!」
「くっくっ……せいっ!」
「くぅっ!?」
私は押されながらも腰を落とし、芳子さんの前褌を奪いました。
普通の大相撲なら大きな身体が邪魔をしてマワシを奪うのも一苦労ですが、
隠相撲では太った人がいないため、奪うのは簡単です。
「ノコッタノコッタノコッタ!」
「ふんっ!」
「んくっ!」
私は両上手で前褌を引き、強引に芳子さんに吊りを仕掛けます。
押しの態勢を崩されて芳子さんの身体が起き上がりました。
この辺りは軽量の悲しさです。
私はすぐに左手を巻き返そうとしましたが、芳子さんは一瞬のうちに両差しに態勢を変えて腰を落としました。
この辺りの判断の速さはさすが芳子さんです。
すぐに私の足がビリッてしました。
「ノコッタノコッタノコッタ!」
「せやっ!」
「くっ!」
芳子さんの内無双。
私は腰を落として防ぎます。
ですが足のビリビリが納まりません。
「ノコッタノコッタノコッタ!」
「ふっ!」
「くぅっ!!」
今度は芳子さんの内掛け。
私はこれもしっかりと踏ん張って耐え切ります。
「ノコッタノコッタノコッタ!」
「えいっ!」
「あっ!? ……くっ!!」
今度は私の内掛けを返す切り返し。
ですが、これは芳子さんに踏ん張られました。
再び芳子さんの両差しの四つに戻ります。
今度は私の左足がビリビリとします。
「ノコッタノコッタノコッタ!!」
「せっ……りゃあっ!」
「うっ……きゃっ!! ……くっ……りゃあっ!!」
「うくっ!!」
今度は芳子さんの肩透かしをフェイントにした小股すくいです。
私は一瞬身体を泳がせましたが、これも強引に腰を落として腰投げ気味に返しますが、これも芳子さんに防がれます。
今度は私の胸から股間にかけてまでがビリビリします。
「ノコッタノコッタノコッタ!!」
「はっ!!」
「んくっ!!」
今度は芳子さんの撞木反り。
ですが、これは形になる前に私が腰を落として潰しました。
「ノコッタノコッタノコッタ!!」
「やああっ!!」
「あっ……くうっ!!」
今度は私が吊りで反撃。
ですが、態勢を崩されこれは一歩も進めませんでした。
再び芳子さんは態勢を低くとります。
瞬間身体がビリビリと警告を発しました。
「ノコッタノコッタノコッタ!!」
「さあっ!!」
「くうっ!!」
芳子さんのずぶねり。
見かけによらずパワーのある芳子さんならではの技ですが、これは私が踏ん張って防ぎます。
さらに身体がビリッとしました。
「ノコッタノコッタノコッタ!!」
「せいっ!!」
「ふんっ!!」
ずぶねりが効かないとみるや、今度は居反り移してきました。
ですが、これもしっかりと腰を落として防ぎきります。
これと同時に私は一気に左を巻き返し、肩で芳子さんの身体を押し上げます。
「ノコッタノコッタノコッタ!!」
「ふっ!!」
「くっ!?」
ここでこの反撃は予想していなかったらしく、芳子さんの顎が私の肩に乗ります。
こうなったら辛いのは芳子さんです。
「ノコッタノコッタノコッタ!!」
「ふんっ!!」
「くうっ!!」
今度は私の上手投げですが、これは芳子さんが腰を落としました。
決まりません。
今度は私の右足がビリッとします。
「ノコッタノコッタノコッタ!!」
「はっ!!」
「えいっ!!」
「きゃあっ!?」
芳子さんの切り替えしですが、これは私が予期できていました。
私は左下手を切り、渾身の掛け投げを放ちました。
芳子さんの足が跳ね上がり、態勢が揺らぎます。
勝った!! ……と思った瞬間、再び全身にビリッが走ります。
「ノコッタノコッタノコッタ!!」
「……くおおっ!!」
「なっ!?」
なんと、芳子さんが凌ぎきったんです。
更に私の前に回りこみ、再び両差し。
しかも、私の身体を起こし左胸の乳首を甘噛みし始めたんです。
「ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」
「んっ……んぅ……」
「あっ……はっ……あっんっ……」
私は何とか反撃をしようとしますが、左手で胸を掴み返すのがやっとです。
私は身体を仰け反らせ寄りを防いでいる状態ですが、反撃しようにも逃げられません! 大ピンチです!
そして、次の瞬間、身体にビリッとした感覚が走りました。
まずいっ!!
「ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」
「んっ……んんっ!!」
「はっ……あっ! ……きゃあああっ!?」
芳子さんが一瞬だけ肩透かし気味の崩しをしかけました。
それに踏ん張ろうと踏み出した私の足は、浮いているうちに芳子さんに捕まっていました。
気付いたときには後の祭りです。
残っている足も右足も刈られ、私の身体は空中に浮いていました。
芳子さんの最終奥義、四所攻めです。
隠相撲型の三所攻めで、右足を足で刈り、左足を手ですくい、更に頭で倒し込む三所攻めに、
乳首を噛みマワシを吊り上げ喰いこませながら倒す荒技です。
「あうっ!!」
私は堪える間もなく土俵の上に転がされてしまいました。
「勝負あった!!」
軍配が芳子さんに上がります。
私の、完敗でした。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
私は天井を見上げながら大の字でした。
悔しいですけど、やっぱり芳子さんのスピードにはまだまだ対応し切れていないようです。
芳子さんが中々立ち上がらない私に手を差し伸べてくれました。
「はぁ、はぁ、はぁ……やるじゃない……正直、あんたとあんなに技を掛け合うことになるなんて、思わなかったわ……」
「はぁ、はぁ、はぁ……今度は……負けませんから……」
私はそう言って手を握り返し、起き上がらせてもらいました。
一礼をして私は土俵をおりました。
勝ち名乗りを受けている芳子さんは堂々と手刀を切り、まるで私に「次も勝たせてもらう」とでも言っているようです。
でも、私だってまだまだ強くなれるんです。
「今度は私が胸に噛み付きますから!!」
渡邉しずかの戦績
十一日目終了 五勝六敗
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