隠相撲 十四日目




十三日目を終わって七勝六敗。

一時は負けが先行してどうなるかと思われましたが、何とかここまで挽回できました。

昨日の取り組みで、同期の私に負けたのがよほどショックだったのか、

セラは今日から休場を申請しました。

理由は吊り落としの際、腰を打ちつけたからとのことでしたが、

おそらく土俵に上がるのが怖くなったのだと思います。

先程、姉でもあるエリカさんと顔を合わせましたが「お礼と腹いせを合わせて」といって、

私は背中に“モミジ”を作られてしまいました。

どうやらエリカさんも遅かれ早かれ、セラにこういう事態が起こる事を予期していたのだと思います。

これで戻ってくるか逃げ出すかはその人間の度量次第。

隠相撲だって、やはり闘っていく場所である以上、やはりサバイバルゲームなんです。



今日の相手は“江原琴美”。

私の同期で同じスピード出世を遂げた四人のうちの一人です。

現在高校三年生の17歳。身長168センチ体重58キロ、スリーサイズは90、62、93で、

髪の毛は少し栗色がかっていて、目がパチッとした可愛らしい先輩です。

琴美の戦績は現在六勝七敗とちょっと苦戦しています。

琴美の得意な形は、私とは反対の右四つ。

特に右下手を引いた寄りはすさまじく強烈です。

その圧倒的な圧力で私は何度も土俵を割っています。

逆に左四つは苦手で、右の上手を引いた私に、琴美は何度の土俵に転がされています。

今までの対戦成績は私に十三勝十六敗。

勝負の分かれ目はやっぱり組み手、特に注意しなければいけないのは琴美の右下手です。

おそらくケンカ四つの組み手争いと、組んでからの攻めがポイントになりそうです。



呼び出しを受けて土俵に上がります。

私は白いマワシですが、琴美さんは深緑の木綿マワシを締めています。

互いに塵を切り、力水をつけ、まずは最初の仕切りに向かいます。

やっぱり琴美とは息が合います。

お互いすぐにでも立てるようなタイミングでほぼ同時に仕切り線に拳をつけました。

私の左脇にビリッとした感覚が走ります。

やっぱり真っ向勝負を狙っているみたいです。

私は一度間合いを外しました。

今のタイミングだと、具合が悪いと判断した為です。

琴美の右下手を凌がなければならない以上、息が合いすぎている訳にはいきません。

息が合っていると一発で組み合ってしまうからです。

二度目の仕切り。

今度は私が若干呼吸のタイミングを外しながら琴美を誘います。

ですが、琴美も自分の呼吸が乱れる前にサッと立ち上がりました。

この辺りの判断はさすがです。

最後の仕切り。

私は景気良く塩を撒き、土俵の仕切り線に移動します。

この一戦に負け越しが左右される琴美の気合いは相当なようですが、

この一戦に勝ち越しが掛かる私の気合いも負けてはいません。

「時間ですっ……手を下ろして……待ったなし……」

私と琴美はゆっくりとサガリを分けて構えます。

やはり左脇がビリビリとします。

お互い探るように睨み合い、そして同時に立ちました。

「はっけよいっ!」

「ふっ!」

「むんっ!」

ドシッという身体と身体がぶつかり合う音。

私と琴美は互いに頭を肩に当て合い、手を複雑に絡め合って互いの差し手を防いでいます。

「くっ……」

「んっ……」

何とかマワシが欲しい私と琴美はこの状態で手をケンカさせますが、なかなかお互いマワシを許しません。

「はっけよーい……」

「うっ……くっ……」

「ふっ……んっ……」

行司さんに囃されますが、私も琴美も早々に動くわけにはいきません。

まるでレスリングの力比べをするような状態で、手の差し合いが続きます。

「えいっ!」

「くっ!」

ここで上回ったのは私でした。

まずは私の得意の右上手が引かれました。

対抗する為に琴美も左下手を引きます。

私は半身になって、琴美の右手を封じ込めつつ更に隙を伺います。

「はっけよーい……」

「ふっ!」

「うくっ!」

再び囃されたのと同時に私は左手を差し切りました。

同じように琴美も右上手を引きましたが、形は私が有利の左四つ。

これなら私には万全です。

「えいっ!」

「くぅっ!」

私の寄りは浅いですが、それでも琴美が辛そうな声を漏らします。

私も腰が重くなりましたが、琴美もかなり腰が重いタイプです。

私の組み手とはいえ、なかなか隙を見せてくれません。

「ノコッタノコッタノコッタ!!」

「やっ!」

「んっ!」

私の左下手からのおっつけながらの崩し。

ですが、琴美は腰をしっかり引いて万全の防御の態勢。

多少崩れはしましたが、攻め込めるほどの隙は見せません。

どうやら琴美は徹底して防御の態勢を取ったようです。

先程からビリッの警告が来ないことを考えても、狙っているのは一瞬の隙を突いての巻き返しです。

ここで左下手を巻き返されたら一転して私のピンチです。

私は警戒しながら琴美を崩そうとしますが、やはり琴美は動きません。

「……はっけよーい……ノコッタノコッタノコッタ!」

「はぁ……はぁ……はぁ……ふっ!」

「はぁ……はぁ……はぁ……くっ!」

私の右の上手投げ。

これは態勢が不十分な上に半端だった為決まりません。

ですが、多少琴美が動いた分、効果はあったと思います。

この後も私が攻めて琴美が防ぐと言う時間が続きました。

私が攻め続けるというのはかなり珍しいんですが、これも勝ち越すためです。

激しい攻防で私と琴美は土俵の上を激しく移動をしています。

琴美は腰を沈めての防御ではなく、すり足で間合いを調整しながら防いでいるため、

私としても先程から掴み所が無く、寄り・投げ・捻りのどれを使っても攻めきれない展開です。

「ノコッタノコッタノコッタ!!」

「はぁ、はぁ、はぁ、くそっ!」

「はぁ、はぁ、はぁ、うくっ!」

私の下手捻り。

ここも琴美に防がれました。

私と琴美はとうとう土俵の中央に戻ってきてしまいました。

さすがに私も手詰まりを感じ、一度腰を引いて攻めるのを見合わせます。

「はっけよーい……」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

膠着して互いに息を整え始めた、その時でした。

突然身体にビリッとした感覚が走り、身体中が警告を発したんです。

「ふんっ!」

「くっ!?」

琴美の反撃は寄りでした。

私と琴美の身体が一気に密着します。

ここで私は胸にビリッを感じました。

まさかっ!?

「……んくっ……」

「あんっ!」

琴美は寄りながら身体を揺するようにすると、私の胸と自分の胸を重ね合わせたんです。

これは隠相撲ではH技の応酬の態勢です。

まさか、琴美がこれを仕掛けてくるなんて……。

「ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」

「うっ……な、なんのつもりよ……」

「くっ……こういうつもりよっ!」

「あうっ! ……このっ!!」

「あぐっ!!」

更に琴美が攻め込んできました。

マワシを放して私を抱きしめるようにして鯖折りを仕掛けたんです。

私は五分の態勢を取るために、一度マワシを放して鯖折りを仕掛け返しました。

「ノコッタノコッタノコッタ!!」

「くっ……さ、さぁ……楽しもうじゃない……んっ……」

「い、言ったわね……んっ!?」

こうなってくると完全に琴美のペースです。

隠れ相撲でこれが通算三十回目の取り組み。

H技の応酬になったのは、これが初めてなんです。

「ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」

「んっ……んん……んぅ……んっ……」

「んっ……んぅっ……んっんっ……」

でもお互い初めてとは思えないほどのキスの応酬です。

お互いの胸は形が変わるくらい潰しあっていますが、乳首同士は揺するたびに擦れて感じてしまいます。

私にとっては段々情勢がやばくなってきました。

「ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」

「んん……んぅ……んんっ……ふぅ……」

「んっ……んっんっ……んぅ……ふぁ……」

「はぁ、はっ……くっ……やるじゃない……」

「はぁ、はぁ、あっ……そ、そっちこそ……」

ようやくキス合戦を終えた私と琴美はお互いおでこを合わせて睨み合います。

この間も身体を僅かに揺すって、胸への攻撃も忘れません。

お互い足は大きく開いていて、お互い仁王立ちでの攻防が続きます。

「ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」

「はぁ、はぁ……けどっ……勝負はこれからよっ!」

「はぁ、はぁ……あっ……ああっ……あああっ!!」

琴美の鯖折りが力を強めてきました。

堪らず私が顎を上げて悶絶してしまいます。

この隙に琴美は、私のうなじと耳を舌で攻め始めたんです!

私は反撃が出来ず、苦しい態勢になってしまいます。

「ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」

「んふぅ……んっ……んっ……」

「あぁっ……うんっ……んあっ……ま、負けるもんかっ!!」

「んぐぁっ!」

私は力を振り絞り、鯖折りを強めました。

今度は琴美の顎が上がり、私がうなじと耳を攻めます。

私の逆襲です。

「ノコッタノコッタノコッタ! ノコッタノコッタノコッタ!」

「んっ……んぅ……んぅ……」

「はっ……あぁっ……あんっ……ちょ、調子にのるなっ!」

「あぐぅっ!」

再び琴美の逆襲です

先程から全くお互い譲りませんが、私の方はちょっとやばいです。

キスの応酬の時間が長かった所為か、自分でもはっきりと分かるくらい濡れています。

「ノコッタノコッタノコッタ! ノコッタノコッタ!!」

「はぁ、はぁ、くっ……そ、そろそろ……良くなってきたんじゃない?」

「はぁ、はぁ、それはっ……琴美がでしょ?」

「……なら、そろそろ……」

「……相手になるわよ……」

私と琴美は、互いに睨み合いながらマワシの縦褌に手を取り合いました。

この状態で互いに少し腰を引き、互いの肩に顎を乗せると一気に擦り合いに突入しました。

「ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」

「うあっ……はっ……ああっ……あくっ……うんっ……」

「あっ……あんっ……んくっ……んっんっ……あっあっ……」

顔が見えないので、琴美がどれくらい効いているか分かりませんが、私の方はかなりやばいです。

相手に相性があるっていうのは効いた事がありますが、

琴美とこの勝負をするのは、相性の問題なら圧倒的にまずかったみたいです。

私は5分もしないうちに高まって、足がガクガクとなり始めてしまっているんです。

「ノコッタノコッタノコッタ! ノコッタノコッタノコッタ!!」

「あっあっ! はんっくぅっ!! はっあっああっ!! ダメェッ!! アッアッアアァァァッ!!」

「くっんっ!! んあっ!! あはっ!! ああっ!! イクッ!! イクゥゥゥッ!!」

私が堪らずイッてしまうのと同時に、琴美も激しく悶えながらイキました。

どうやらギリギリのところで引き分けだったみたいです。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

お互い絶頂に達した余韻でフラフラになりながら組み合っています。

さすがに縦四つはもう終わり、再び左四つ……と思った瞬間、私の左手がビリッとしたんです。

「ふっ!」

「うあっ!?」

琴美にあっという間に巻き返られました。

全身にビリビリッと警告が走りますが、私はイッた直後の余韻で反応しきれません!

「そっ……りゃあっ!!」

「あっ……きゃあっ!!」

琴美が左下手で私のかいなを切って、流れるような動きでの右下手投げ。

私は必死に蹈鞴を踏むのが精一杯です。

ですが、ここで琴美は思いもしない攻め手を用意していました。

なんと腰を落として私の後ろに組み付いたのです。

「あっあっ……」

私は琴美の展開についていけず、ほとんど抵抗らしい抵抗が出来ません。

琴美は私が狼狽している間に、スタンディングのドラゴンスリーパーを決めました。

「ノコッタノコッタノコッタ!!」

「ぐぅっ!」

「はぁ、はぁ、はぁ、さぁ、捕まえたわよ! これで私の勝ちね!」

「くぅぅ……くそぉ……」

私は悔しさに表情を歪めますが、もう返しようもありません。

首と右腕を捕らえられ、身体を反った状態では反撃の仕様もありません。

ただ左腕でもがいている私の姿は、完全に晒し者状態です。

「ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」

「はぁ、はぁ、はぁ、作戦成功ね……

 ちょっとやばかったけど、やっぱりあたしはこのスタイルが合っているみたい……どう? 降参する?」

「くっ……くっ……うくくっ……だ、誰がするか……」

「はぁ、はぁ、へぇ……勝てると思う? ギブアップしたら?」

「うぁぁっ……くっ……くぅっ……」

屈辱的な言葉に必死に悔しさが倍になります。

ですが、力士としての意地に賭けて、自分から負けを認めるなんて出来ません。

「ノコッタノコッタノコッタ!! ノコッタノコッタノコッタ!!」

「はぁ、はぁ……そうそう、しずかはそうじゃなくっちゃ……

 コレ……やってみたかったんだぁ……ふぅぅんっ!!!」

「ぐぅぅぅっ!! うあっあっ……うぁぁ……あぁ……ぁ……」

琴美が渾身の力で私を締め付けました。

苦痛を通り越して意識が落ちそうになるほどの力です。

私は逃げ場を求めて、必死に左手をもがかせましたが、逃げられるわけもありません。

琴美の締め付けに私は力を失い、そのままペタンと尻餅をついてしまいました。

「勝負あった!!」

軍配が琴美に上がります。

私の“腰砕け”で敗戦です。

「はぁ、はぁ、ちえっ……ギブアップしなかったか……」

琴美はそう呟きながら私を解放しました。

「はぁ、はぁ、はぁ…………くっ……くっそぉ…………」

最後は手も足も出ず負けてしまった悔しさに、私は四つん這いになって唇を噛み締めます。

「はぁ、はぁ……覚えておきな、しずか……

 枝里子さんの代わりにな、これからは私があんたをイカせてやるから……」

「なっ!?」

私は驚いて琴美を見上げました。

琴美は、私を見下ろしながらニヤリと笑っていました。

私は身体中が脱力する思いでした。

一礼をして、私と琴美の取り組みが終わりました。

勝ち名乗りを受ける琴美は、私に見せ付けるように手刀を切ります。

その姿は「枝里子さんの相撲を受け継いだのが、お前だけだと思うなよ」って私に言っているようでした。

私は苦笑いしながら、土俵をあとにしました。



「……………………まいったなぁ………………」





渡邉しずかの戦績



十四日目終了 七勝七敗





隠相撲 topへ




inserted by FC2 system