相撲の力 1−1
ねぇねぇ、知っている?」
「聞いた聞いた! 今度の新入生の話でしょ?」
在校生が新しい学年に進み、桜も散り始める入学式、
新しい後輩をを待ち受ける上級生たちは、ある新入生の話題で持ちきりだった。
新入生の名は『高村悠里』
現役女子中学生レスラー、閃光の妖精の二つ名で活躍している、
ホンモノのプロレスラーである。
そしてもう一人、『久乃月葉』
こちらも現役中学生レスラーで、悠里のライバルとして活躍している忍び装束が特徴の、
やはりホンモノのプロレスラーである。
私立青山高校は多岐にわたる部活動で有名な高校である。
運動部、文化部、共に全国区で有名になることが多く、
プロの野球選手やサッカー選手を数多く生み出している。
そんな中、スポーツ推薦と言う形で、悠里と月葉はこの学校に進学してきたのだった。
「現役のプロレスラーか・・・すごいねぇ・・・」
ざわつく体育館の中、草野瑠璃子が呟くように言った。
「別に凄くなんか無いわよ。あたし達だって立派な力士なんだから」
木下桃が、恥かしげもなく言い放った。
隠相撲と呼ばれる、男子禁制の女だけの相撲競技。
新相撲のようなスポーツではなく本当に相撲で闘いたい女性の為の、
世間から隠された相撲の場。
桃と瑠璃子は、この隠相撲の力士だった。
現在桃は前頭8枚目、瑠璃子は前頭10枚目。
日々切磋琢磨している二人は、この高校では新相撲部の二枚看板。
その強さは女子高生としては折り紙付きで、軽量級ならば全国区で充分通用する力を持っていた。
二人だけではない。
それこそ、空手、柔道、剣道、アマレスといった、他の部でも全国区で活躍する生徒は何人もいる。
ところが、まだ高校で何の実績も上げていない新入生が話題を掻っ攫っていっている。
元々負けん気の強いところのある桃は、正直面白くなかった。
一方、校門では新入生たちが、自分たちはどこの教室に向かえばいいのかと、
クラス分けの掲示板の前に集まっていた。
「え〜と、え〜と……」
「なかなか見えませんねぇ……」
「諦めてなるものか〜!」
「そ、そんな我先に行かなくても見にいけると思うんですけど・・・」
「あ、あったあった! 1-Cだ! 月葉ちゃんも一緒だよ!」
「えっ!? ほんとですか!? わぁ、一緒のクラスだなんて嬉しいです!」
話題の中心となっているプロレスラー二人、
悠里と月葉も集団の中に混ざっていた。
制服を着ていれば、どこからどう見ても普通の高校生だ。
人の迷惑になりそうなことも、人懐っこい笑顔で許してもらっている悠里に、
その後ろから控えめに、苦笑いを浮かべながら付いていく月葉。
他の新入生たちが、二人が噂のプロレスラーだと気付くが、
二人は……というか、悠里だけはそんな周囲の視線などどこ吹く風と、
ずんずんと先へ進んでいってしまった。
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