相撲の力 1−2
校長先生の超長話、さらには来賓の長話とひたすら繰り返される入学式が終わり、
翌日から新入生たちには新しい高校生活と、部活勧誘の期間が開始された。
やはり活発な学校生活が手伝うのだろうか、様々な部活がこれでもかと勧誘のイベントを開催していた。
野球部はストラックアウトを開催し、サッカー部はPK対決を開催し、空手部は型を披露し、
吹奏楽部はコンサートを開き、軽音楽は対抗して路上ライブを開き、
パソコン部は怪しげなソフト開発を宣伝し、ひっそりと科学部が危なそうな実験をしている。
既に入学の時点で、その驚異的な身体能力に様々な部活に目をつけられている悠里だが、
ストラックアウトでは全球枠に当てて結果ゼロ枚、
PK対決では男子顔負けの速度のシュートを、キーパー真正面にぶち込み、
陸上のハードルでは全てのバーを蹴り倒して好タイムと、奇妙な伝説を打ちたてていた。
しかし、とうの悠里はといえば、
周囲の好奇の目を気にせず、ケラケラと笑いながら部活紹介を楽しんでいた。
「あはは、やっぱ高校ってたのしーね!」
「ゆ、悠里さんが一方的に楽しみすぎている気がしますけど……」
一緒に行動する月葉も微妙に肩身が狭い。
月葉も本気を出せば悠里に勝るとも劣らない身体能力を持っているが、
あまり目立つのはよろしくないと控えているのだ。
その所為だろうか?
天真爛漫な悠里の行動に付き合う自分が、少し心地良くも感じていた。
「手を付いて……はっけよいっ!!」
不意に聞こえてきた声に、悠里の耳がピクリと動いた。
月葉もつられて声のした方に視線を向ける。
そこには土俵があり、相撲部、新相撲部が合同でデモンストレーションの取り組みを行っていた。
「いってみよ!」
「はいっ!」
相撲に馴染みのある二人は、小走りで声のした方に走っていった。
「いいやっ!!」
「くううっ!!」
土俵の上では、桃と瑠璃子が新相撲のレオタードにマワシ姿で、熱戦を繰り広げていた。
左下手を得意とする桃に対して、逆に左上手が得意な瑠璃子。
ケンカ四つの二人の態勢は、互いに胸をあわせた左四つ。
組み手争いを制した桃が優勢、
瑠璃子は桃の左下手からの掛け投げを仕掛けられないように必死に腰を落とし、
桃は懸命に瑠璃子を引き付け、反撃に警戒しながら崩しを仕掛け続ける。
高校生レベルでは考えられない高度な攻防だった。
「のこったのこった!! のこったのこった!!」
行司をしている顧問が、囃す。
まるで大相撲をみているような、熱の入った取り組みだった。
「すごい、すごい! あの先輩たち、すっごく強いよ!」
「そうですね! あんなにがっちり組み合って、腰も落ちていて、
それでも引きつけは強烈で……。
あんなレベルの人はなかなかいませんよ!」
見学者に紛れている悠里と月葉も、二人の熱戦を手に汗を握って観戦している。
土俵上、桃の激しい攻めを凌ぎ切った瑠璃子、
現在は左四つのまま二人とも腰を引き、隙を伺っている。
「はっけよーい……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「はぁ、はぁ、はぁ……くっ……」
互いに息が上がっているが、若干苦しそうな表情を浮かべているのは瑠璃子だ。
自分の組み手に出来なかったうえ、
桃の肩でのおっつけと引きつけで完全に顎が上がり、動きを封じられてしまった。
「あの態勢……やばいね……」
「そうですね……でも、あそこまで綺麗な四つだと動けませんね……」
悠里と月葉の呟いた瞬間、桃が動いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……もらったぁぁっ!!」
「はぁ、はぁ、はぁ……きゃっ!? ……あうっ!!」
桃の強引な左下手からの掛け投げ。
腰が浮き始めていたことに気付けなかった瑠璃子は、耐え切れず土俵に転がってしまった。
「勝負あった!!」
「よしっ!!」
思わずガッツポーズが飛び出る桃。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
負けた瑠璃子は、ちょっと悔しそうに俯いている。
惜しみない拍手のなか、互いに礼をして土俵を降りた。
直ぐにどちらからともなく声を掛け合い、少し突っつきあって笑いあう。
誰が見ても良い友でありライバルなのだなと分かった。
そんな桃と瑠璃子を見ていると、羨ましくも思ってしまう。
「楽しそうだね」
「そうですね」
「でも、あたしが求めているものは、違うもんね!」
「また、そういう言い方を……」
悠里の宣言に苦笑いをする月葉。
確かに月葉はちゃんと学力も伴って合格したが、
悠里はある条件をもって入学してきているため、どこの部活にも入らないつもりだった。
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