相撲の力 7−1
桃と悠里の決闘。
またしても惜敗してしまった桃だが、
かえってすっきりしていた。
自分は年下の悠里に劣っている。
それは単純な強さの話ではない。
精神的な、完成度に於いて劣っていたのだ。
しかし、もう心のもやは吹っ切れた。
悠里の余裕を無くさせてツッパリを何発も叩き込んだ。
あと一歩まで追い詰めたが、
やはり悠里は天才や異端と呼ばれる存在であると体感できた。
もう充分と思えるが、まだ欲求は満たされない。
それは、悠里と心の底からお互いに闘いあう事。
即ち、隠相撲の精神に乗っ取って闘うことだ。
「ほへぇ〜……こんなところにこんな場所があったんだ……」
「ある所にはあるんですねぇ……」
悠里と月葉は隠相撲の会場に来ていた。
本場所が行われていないとは言え、稽古に顔を出す力士も少なくない。
悠里は桃に案内状を貰い、
迷子になるといけないと月葉も一緒についてきたというわけだ。
都内の一角、高級住宅街のマンションの地下に降りてみれば、
その下には広々とした空間が広がり、
土俵がスポットライトを浴びて凛然と存在していた。
マワシだけを締めた女性力士たちが、土俵を囲み稽古をしている。
明らかに社会人の女性も居れば、悠里や月葉と同世代の少女もいる。
悠里は鼻をピクピク動かした。
月葉も身体が疼くのを感じる。
今すぐ自分たちもあの激しい稽古に参加したい衝動にかられる。
それほどこの場所は魅力的に感じられた。
「どう? 気に入った?」
入り口でソワソワしている二人に声を掛けたのは、当然桃だ。
瑠璃子と共にこちらもマワシ一つの裸体を晒している。
「わぁ、桃ちゃん先輩、瑠璃子ちゃん先輩、かっこいい!」
「そう? ありがと」
「やっぱり月葉ちゃんも一緒に着ちゃったわね」
「悠里さんだけでは多分辿り着けそうになかったので。
瑠璃子先輩、ここは?」
瑠璃子は少し微笑む。
「ここが私と桃がいつも戦っている場所。
女同士が相撲で闘う場所、通称隠相撲よ」
「隠……相撲……」
「なんかかっこいーっ!!」
すっかりテンションが上がってしまった悠里、
何故呼び出されたか、完璧に忘れてしまっている。
桃は悠里の眼前まで近づいた。
胸と胸が合いそうな距離だ。
「もうすぐ稽古の時間は終わりなの。
明日は休みだし、たっぷり闘えると思わない?」
「挑戦状だね! いいよ、やろう!!」
桃の挑発に悠里は迷うことなく乗った。
「ちょっとは警戒して欲しいです……」
月葉が肩を落とす。
「あら、闘うのは月葉ちゃんも一緒よ?」
「はい?」
「貴方の相手は、この私よ」
月葉は身震いし、無意識に対戦を承諾していた。
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