相撲の力 7−2
女力士たちの稽古が終わったあと、
案内された支度部屋で悠里と月葉は着替えていた。
マワシを締め、髪の毛を纏める。
「あ、やっぱり来ていた」
「おー、マワシもそこそこ似合っているナ」
「……隆美さんにエリカちゃん!?」
突然の来客に悠里が声を上げる。
「どうしてどうして!? なんで二人がここにいるの!?」
「簡単よ。私とエリカはこっちが主戦場なの」
「えーっ、そうなの!? なんでもっと早く教えてくれなかったのーっ!?」
「相撲しないカって誘いを、プロレスをしたいって断ったのはどこの誰だヨ?」
「……あれ?」
「バカタレ」
「バカっていうなーっ!」
悠里は軽い調子で突然現れた大柄な二人の女性に構ってもらっているが、
月葉はこの二人が誰なのかすら分からない。
「貴方が久乃月葉さんね? 話は瑠璃子ちゃんから聞いているわ。
私は隆美。こっちはエリカ。隠相撲で東西の横綱を張っているわ」
「え? あ、はい、初めまして……あの、どうして?」
突然名前を呼ばれた月葉はうまく言葉が出せず片言になってしまう。
隆美は優しく微笑む。
「あの大人しい瑠璃子ちゃんが珍しく熱っぽく貴方の事を話していたからね。
……なるほど……一晩がかりの対戦になりそうね」
「あ……はい……」
月葉は曖昧に返事を返した。
正直、真剣勝負の相撲のみだとどうなるのか……・。
少し不安げな表情を見せる月葉に、隆美もエリカも好感を覚える。
悠里ほど破天荒でも困り者だが、
月葉のように一つ一つ緊張を持って臨む者も戦う覚悟を裏付ける。
気分を変えさせてあげようと、隆美は油と櫛を取り出す。
「ところで、二人とも大銀杏結ってみる?
せっかく本格的に相撲するんだし、二人くらいの髪の長さなら結えると思うけど?」
「したい、したい!」
「是非お願します!!」
少女二人は直ぐに食いついてきたのだった。
「なかなか、元気な子達だったわね」
「桃ちゃんと瑠璃ちゃんが苦戦するってのが分かるわ」
静香、静音の双子大関相手に胸を貸してもらい、
ぶつかり稽古の相手をしてもらっていた。
充分に準備をしてからではないと、あの二人に勝つことは出来ない。
「特にあの悠里って元気な子は凄いですよ」
「月葉ちゃんも油断してたら足元掬われちゃうし」
桃にも瑠璃子にも緊張が走っている。
入念なぶつかり稽古はこれからの激闘が予想できるからだ。
「私もあの悠里って子は気になるな……凄く手が合いそうな気がするし……」
「あたしは月葉って子かな。
控えめでも内に秘めたものがあるしイジメがいがありそう」
激しい稽古を繰り返しながら、四人は悠里と月葉の登場を待った。
ややあって、
「お待たせしましたーっ!」
会場に大きな声が響いた。
大銀杏を結った悠里と月葉が入場してきたのだ。
完全に力士の表情となって待ち構えていた桃と瑠璃子、
同じく緊張した面持ちの月葉、一人だけいつも通りの悠里。
緊張感が会場全体を包むようだ。
「さて、行司はあたしが勤めさせてもらっていいわよね?」
そう申し出たのは隆美だ。
横綱の立場としても妥当な選択だろう。
「月葉ちゃん……わかっているわよね?」
「……もちろんです。今度は絶対に負けません」
そう短く言葉を交わした瑠璃子と月葉は迷わず土俵に向かい東西に分かれた。
「今日という今日は、絶対に負けないから」
「そういうセリフは勝ってから言ってください!」
桃の挑発に悠里も挑発で返す。
二人はそれぞれ瑠璃子と月葉の後ろについた。
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