相撲の力 幕間





「ふーん……また悠里ちゃんに挑戦するんだ」

「うん。エリカさん直伝の掌底もだいぶ身になったし、

 敵わないまでも一矢報わないと気がすまないし」

昼休み。

すでにやる気になっている桃は、

いきり立ちながら昼食のパンをほおばっている。

前回悠里に挑みに言ったときとは違い、

作戦も出来上がっている。

純粋に闘うものとして挑む以上、

瑠璃子に止める理由はない。

「で、瑠璃ちゃんにちょっとお願いがあるわけよ」

「私は別に止める気は無いわよ?」

「そうじゃなくて、もう一人の方の説得」

ああ、と瑠璃子は思い当たる。

悠里といつも一緒にいる真面目な月葉のことだろう。

高校生活で、悠里と月葉は一緒に居る事が多い。

友達同士ということと、同じレスラー同士ということだろうが、

月葉には悠里を見張っているような雰囲気もある。

悠里が揉め事に巻き込まれない為なのか、

悠里に揉め事を起こさせない為なのかはわかりかねるが。

瑠璃子はうーんと首を傾げると、

「あの子なら大丈夫じゃない?

 ちゃんと説明すれば分かってくれると思うけど?」

「本当にそう思う?」

「……いや、あまり良い顔はしないかもしれないわね……」

「でしょでしょ?

 だから、ちょっと瑠璃ちゃんから説得をしてもらいたいなと思っているわけよ」

「私を引き合いに出す理由にはならないわよね?」

「そこを何とか!

 ああいうタイプの子は瑠璃ちゃんの理路整然としたところには弱いと思うからさ!」

桃は手を合わせて何度も言葉を繰り返す。

こういう押しに弱いのも熟知しているからだろう。

「分かったわよ」

「さんきゅ!」

やれやれと、瑠璃子はため息をついた。





「それで、私にこの話を?」

「ええ。貴方は悠里ちゃんの保護者みたいだからね」

「……う〜ん……」

瑠璃子に話をされた月葉は唸り声を漏らした。

放課後、同好会の練習前に瑠璃子は月葉を捕まえた。

悠里に合流されては桃が挑戦できないからだ。

月葉も桃が悠里へのリベンジを誓っていたのは知っている。

けれども、その手段としてケンカになってしまうのは出来れば止めたい。

しかし、自分はプロレスという悠里との決闘が出来る共通ジャンルを持っていた。

桃と悠里の決闘となると、

プロレス、相撲、どちらを選んでも得手不得手がはっきりしてしまい、

公平な勝負となると、線引きは非常に難しい。

「どうしてもやるつもりなんですか?」

「本人はね」

「瑠璃子さんは?」

「……止めたいけれど、言って聞くような子じゃないし」

「そうですか……」

月葉はふと口元を緩めた。

やっぱり瑠璃子とは同じ苦労を共有しているらしい。

しばらく迷っていた月葉は、やがてゆっくりと顔を上げた。

「……でも、やっぱり私は止めさせてもらいます。

 二人にとって何の意義もないはずですから」

「そう言うと思ったわ……」

瑠璃子は苦笑いをすると、急に真剣な表情に変わる。

「……なら、こういうのはどう?

 今から私と貴方が決闘するの。

 その勝敗で貴方が止めるか、それとも見守るのか賭けましょう」

月葉はドキリと胸が鳴るのを感じた。

瑠璃子は本気だ。

そして、月葉がこの賭けに乗る事を確信している。

否、それ以上に、月葉と闘いたいという闘志が、信じられないほど溢れている。

「……桃ちゃんにとって悠里ちゃんが倒したい敵であるように、

 私にとっては、月葉ちゃんがどうしても倒したい相手なの。

 私の挑戦、受けないとは言わないわよね? プロレスラーさん?」

「…………」

月葉は真っ向から瑠璃子を睨み返した。

力士を自覚するものの言葉。

安易に返せるほど、気楽な言葉じゃない。

深く言葉を飲み込んでから、月葉は口を開いた。

「わかりました。お受けします」











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