相撲の力 幕間2





悠里に今日の同好会の練習は休むと伝え、

瑠璃子と月葉は決闘の場所に柔道場を選んだ。

幸い、柔道部は今日は全国大会に出場、戻ってこない。

中に入ると鍵を閉め密室に。

月葉と瑠璃子は思い思いの姿になった。

瑠璃子はレオタードにマワシ。

月葉は練習用のTシャツにスパッツ。

「……月葉さん、マワシをつけてもらえる?」

「ええ、いいですよ」

瑠璃子の提案を呆気なく受ける月葉。

Tシャツを脱ぐと、下はスポーツブラだった。

「新相撲ルールで勝負ですか?」

「……いいえ、それじゃ私を優先してもらいすぎだもの。

 決闘なんだから、もう少しお互いにハンデ無しにしましょう」

「……といいますと?」

「……アイアンマンマッチって、知っている?」

「はい。決められた時間の中で何本取るかの勝負ですよね?」

「さすが、博識ね」

「いえ。じゃあ、アイアンマンマッチを?」

「ええ。土俵は赤畳みの外。外に押し出されるか、ギブアップで一本でどう?」

「……凄い勝負を思いつきますね……」

月葉の指摘に瑠璃子は苦笑いを浮かべる。

「こっちも色々やっているから。

 開始は相撲の仕切り。外に出たらもう一度仕切りなおし。

 ギブアップ場合はその場から継続でOK。

 これならアンフェアじゃないでしょ?」

つまり月葉には出だしで捕まったら苦しいが、

関節技に持ち込めば一気呵成に畳み掛けることが可能になるということだ。

「わかりました。お受けします」

瑠璃子は少し妖艶に微笑んだ。

やはり自分の闘う者の一人だ。

こういう大一番の前には胸が高鳴る。

「……時間は……6時ね……制限時間は30分でどう?」

「分かりました」

「…………始めましょう」





瑠璃子は仕切り線に見立て、開始線に左拳をつける。

月葉もそれに倣う。

互いに呼吸を合わせ、同時に右拳を叩く。

「ふっ!」

「やっ!」

バシンッ!という衝撃音、互いにぶつかり合った。

組み手は右四つ。

瑠璃子の得意の形。

「くっ……」

「むっ……」

互いに腰が落ちて万全の態勢。

大きく足を開きがっぷり四つの大相撲の態勢だ。

「……ほら、はっけよーい」

「……そんな挑発には乗りませんよ……」

瑠璃子が行司の囃しを真似する。

月葉は油断なく足を踏みしめるだけで挑発には乗らない。

この間にも互いに強烈な引付を耐え続けている。

足は僅かずつに動き、互いに探りを入れている状態だ。

「……はぁ……はぁ……」

「……はぁ……はぁ……」

少しずつ息が乱れてきている。

本当はこのままじっくりと攻め合いたいところだが、

時間が限られている中での勝負。

あまりのんびりとはしていられない。

「せいっ!! やっ!!」

「あくっ!! うっ!!」

瑠璃子が攻め始めた。

力任せのねじり上げるような寄り。

防戦に回ろうとした月葉だが、

マワシが食い込み否応なく腰を浮かせられてしまう。

「ふっ! むんっ!!」

「あっ……やっ……」

強引に前に出る瑠璃子に、必死に腰を落とそうと後退する月葉。

足を運ぼうとするが、瑠璃子の下半身が重く左右に逃げられない。

瑠璃子の攻勢が続く。

「んっ……ふんっ!!」

「あっ……あっ……くぅぅっ……」

月葉が赤畳みに追い詰められた。

あと一歩後退すれば寄り切られる。

月葉は背伸びの状態で耐え、吊り合いの状態になった。

胸がしっかりと合わさり、互いの肩に顎が乗っている。

「ほら、のこったのこった! 後がないわよ!」

「うっ……くっ……」

「のこったのこった! のこったのこった!」

「あっ……あっ……」

月葉の腰は完全に浮いている為、抵抗することも出来ない。

それを承知の上で、瑠璃子は僅かに腰を動かすガブリ寄りで、

月葉を屈服させようとしている。

諦めれば一本落とすだけ。

しかし、そんな簡単に折り合いをつけられる闘争心を、月葉は持ち合わせていない。

「のこったのこった……のこったのこった……」

「はぁ、はぁ……のこったのこった……」

囃す瑠璃子を逆に自ら囃す事で挑発し返したのだ。

「……ふふ……さすが悠里ちゃんのライバル……意地っ張りね」

「あ、ありがとう……ございます……」

「いいわ……せえええいっ!!」

「くぁあああっ!!」

気合いを入れると、月葉の両足が呆気なく畳を離れる。

月葉がつり出された。

1−0だ。

「はぁ、はぁ、はぁ……まずは一本……」

「はぁ、はぁ、はぁ……次は負けませんよ……」

一度開始戦に戻る。

互いに構えるが、月葉の表情が少し歪んでいる。

「はっけよい……」

「はっけよい……」

「「のこった!!」」

再び同時に立つ。

「せいっ!」

「やっ!!」

「うくっ!?」

今度は月葉が先に仕掛けた。

瑠璃子の右四つを警戒して押し相撲に持ち込もうとしたのだ。

これが功を制したのか、瑠璃子の出足が鈍る。

この隙に月葉は右四つに持ち込んだ。

「むんっ!!」

「くあぅっ!」

しかし今度は瑠璃子が休ませてくれない。

自分の苦手な組み手であるにも関わらずいきなり吊りよりを仕掛けてきたのだ。

当然月葉も対応しなければいけず、両者が吊り合いの状況で固まる。

「むっ……くっ……」

「んっ……くっ……」

ジリジリした力比べ。互いに一歩も引かない。

息を止めたまま我慢比べが続く。

「くはっ……」

「くっ……」

「むんっ!!」

「くああっ!?」

ふと瑠璃子の力が一瞬だけ緩んだ。

埒があかないと腰を引くつもりなのかと、月葉も力を緩めてしまう。

その瞬間を狙われた。

瑠璃子が間髪居れず再び寄りに力を込めたのだ。

慌てて態勢を整えようとする月葉だが、瑠璃子の揺さぶりが早い。

あっと言う間に赤畳みへと追い込まれてしまう。

またつま先立ちで追い込まれてしまう。

「くぅぅっ……」

「むっ……くくっ……」

「はぁっ……はっ……くっ……」

「うっ……んっ……はっ……」

「……ね、粘るわね……レスラーにしておくのがもったいないくらい……」

「ね、粘り強さはプロレスで学んできていますから……・」

本当は歯を食いしばり声など出せないはずなのだが、

この辺りは二人とも狡猾だ。

今回瑠璃子は手加減せず寄りきろうとした。

しかし、本当に月葉の粘り腰に食い止められているだ。

ここで力を入れすぎては消耗が激しい。

だからと言って力を緩めれば逆転されてしまう。

正にギリギリのバランスで月葉に対し圧力をかけ続けているのだ。

「ほら、のこったのこった……のこったのこった……」

「くっ……のこったのこった……のこったのこった……」

「……くっ……ほ、ホントに我慢強いわね……」

「お、お互いさまです……」

月葉も我慢強ければ月葉の根負けを待ち続けられる瑠璃子も相当なもの。

「のこったのこった……くっ……くっ……のこったのこった……」

「あっ……はっ……のこったのこった……うっ……あっ……」

「……・も、もうっ……」

「……くっくはっ……」

「こんのおおおおおっ!!!」

「きゃあああっ!!」

再び月葉が吊り上げられ、赤畳を割った。

これで月葉が連敗し、2−0だ。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

二人とも呼吸が激しい。

しかしまだ10分しか経っていない。

否、五分もの大相撲を連戦した時点で相当スタミナは消耗している。

まだこれからだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……さぁ、次よ」

「はぁ、はぁ、はぁ……ええ」

再び開始戦に戻る瑠璃子と月葉。

構えながら月葉は直感していた。

このままでは絶対に勝てない。

今日の瑠璃子は覚悟が違う。

今から追い上げても相撲では逆転できない。

多少乱暴でも強引に此方の展開にしなくては。

そう考えると、やはり手っ取り早いのは悠里の真似事だった。

「はっけよい……」

「……はっけよい……」

「「のこった!」」

開始の合図と同時に月葉は思い切って身体を倒した。

相撲では負けになるが、今のルールでなら問題はない。

「やっ!!」

「うあっ!? あうっ!!」

(蟹バサミッ!? しまったっ!!)

この動きへの耐性は低い瑠璃子。

立ち合いの変化に完全に引っかかり、うつ伏せに倒れてしまう。

「もらったっ!!」

「あああああああっ!!!」

がっちりと決めた逆エビ固め。

瑠璃子がたまらず悲鳴を上げる。

「ギブアップ!?」

「ノーッ!! くああああっ!!」

「ギブアップですか!?」

「ノーよっ! こんな程度でっ……」

「むんっ!!」

「ああああ〜〜〜っ!!」

本来なら腕立てで返せるところだが、

月葉は劣勢を挽回する為に全力で締め上げている。

早々に跳ね返せるほど甘い決め方をしていない。

瑠璃子の身体が文字通りエビ反りの状態で固められている。

「くっくっ……」

「ああぁぁ〜〜〜……あああぁぁ〜〜〜〜……」

「なかなか音をあげませんね……さすがです……」

遂に月葉は根負けして技を解いた。

やはりこの人は自分と同種の人間だ。

甘い技で屈するほど、弱々しい精神力を持ち合わせていない。

「それなら……」

月葉は音もなく瑠璃子の死角に回り込んだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……くぅぅっ……」

瑠璃子は腰に鈍い痛みを感じながらようやく立ち上がった。

やはりいつも桃や静香たちと遊ぶプロレス技とは威力が違う。

出来るかぎり関節技に捕まるのは避けなければ。

そう考え、ようやく頭が動き出す。

追い討ちもせず、月葉はどこに行ったというのか?

「こっちですっ!!」

「しまったっ!?」

「せやあああああっ!!」

「あうっ……あああああああああああっ!!!」

月葉の必殺、忍十字。

高速の飛びつき腕十字固めだ。

一瞬にして畳みに叩き付けられた瑠璃子。

次の瞬間には腕が真っ直ぐに伸びきってしまっている。

「あああああーっ!! あああああーっ!!」

激痛。それ以上に腕が折れると言う恐怖が瑠璃子から思考力を奪う。

「ギブアップ!?」

「ああああーっ!! ギブギブギブギブッ!!!」

真っ白のまま、瑠璃子は月葉の足を激しくタップしていた。

これで2−1。

時間は15分。

「……半分を過ぎましたね」

月葉は一旦技を解き立ち上がる。

「はぁ、はぁ、はぁ……今のは貴方の必殺技?」

腕を押さえたまま瑠璃子もゆっくりと立ち上がろうとする。

「ええ。本当の強敵にしか使いません」

「……・そう……」

「……そして、これもですっ!!」

「ぐあうっ!!」

立ち上がろうとした瑠璃子に、月葉は容赦なく卍固めを仕掛けた。

まるでガチッという固められた音が聞こえそうなほど完全な極まり方だ。

「どうします? ギブアップしますか?」

「ノ……ノォ……うあ……あぁ……」

「……ギブアップ?」

「……ノォ……あう……あっ……」

文字通り身動き一つ取れなくなった瑠璃子。

苦しげな声を漏らしながら懸命に耐える。

このまま耐え切れば確かに勝てるが、

10分以上このままでいることは不可能に近い。

「……ほら、のこったのこった、のこったのこった」

「くっ……くあっ……あ〜……」

月葉がわざとらしく相撲の囃し声を出す。

しかし、瑠璃子には返せる余裕すらない。

これがプロレスラーの本気で仕掛ける卍固めということなのか。

素人がごっこで掛けるものとは次元そのものが違う。

まるで動く意志を奪われてしまうかのようだ。

尻を突き出した、まるで四つ身に組んでいるかのような状態で、瑠璃子の身体は硬直している。

「……やりますね……私の卍をここまで耐えるなんて……」

「あっ……あっ……」

「でもいつまで持ちますかね? 私の卍は悠里さんだって凌ぎきれないんですよ?」

「あっ……やっ……ノォ……あっ……」

動けない。絶望的に動けない。

力で返すことも、テクニックで返すことも出来ない。

動く事が出来ないのがここまで苦しいとは。

二人の息遣いと、秒針の音だけが柔道場に響いている。

どのくらい耐えたのだろうか……このまま耐え凌ぐのはやはり不可能だ。

瑠璃子は既に腹を括った。

勝負は一瞬、一瞬で月葉の全てを奪わなければいけない。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「……うぅ……ギブ……アップ……」

瑠璃子がとうとう折れた。

「これで2−2ですね」

月葉が一度卍固めを解く。

その瞬間、瑠璃子は自分の全てを爆発させた。

「うわあああああっ!!」

「なっ!? きゃあああああああっ!!」

倒れることなく月葉に組み付き、全身全霊を掛けた鯖折り。

自分の全てを搾り出すかのような万力の締めに、

月葉は大きな悲鳴を上げる。

「どうだあああっ!!」

「ああああっ!! あああぁぁーっ!!」

逃げようがなく月葉は必死に頭を振ってギブアップを拒絶する。

ここで取り返されると後がない。

絶対にギブアップするわけにはいかない。

「わああああああっ!!!」

「あああああああっ!!!」

「あっ……あっ……」

「……あうっ……うっ……」

力の全てを出し尽くした瑠璃子、

死に物狂いで耐え凌いだ月葉。

瑠璃子が力尽きたところで、同時に月葉も力尽き、

二人は仰向けに倒れてしまった。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

鯖折りの状態を瑠璃子はまだ続けているがこれ以上力は込められない。

月葉も最後の鯖折りで反撃する力を奪われていた。

時計に目をやる。

ちょうど20分を過ぎた辺りだ。

「はぁ、はぁ、はぁ、5分も耐えられるなんて、さすが瑠璃子先輩ですね」

「はぁ、はぁ、はぁ、お世辞はいいわ。ただ逃げられなかっただけだもの」

「でも決着はつけなきゃ……ですよね?」

「当たり前よ……」

月葉はゆっくりと瑠璃子の背中に手を回した。

わずかに残された力をぐっと込める。

同時に瑠璃子は自分の位置を直し、

お互いの小ぶりな胸がしっかりと重なり合う位置にずらした。

女の決闘で闘う力が残されていないなら、

最後の手段はこっちの勝負しかない。

「……ちょっと意外です」

「何が?」

「瑠璃子さんがこういう決着のつけ方に抵抗感がないことです」

「………………それは、お互い様じゃないかしら……」

「…………そうですね……」

瑠璃子にとってこっちの決着は隠相撲で常識、

月葉にとっても地下プロレスで常識。

しかし、普通の一般人の感覚なら拒否をして当然のはずなのだ。

二人揃って今更そのことに気付き、間近にあるお互いの顔を見つめながら頬を赤らめる。

「……まぁ、いいわ。行くわよ……んっ……」

「はい……んっ……」

二人は互いに抱きしめあいながらまずはキスから開戦した。

マワシはきつく締められたままだし互いにレオタードとスパッツを着ている。

直に刺激しあうのは無理だ。

「はぁ……はぁ……あっ……」

「はぁ……はぁ……んっ……」

まずは上になっている瑠璃子が攻勢。

ゆっくりゆっくりと身体を揺すり月葉の胸とマワシ越しの股間を擦りあう。

対して月葉はしっかりと瑠璃子の身体を抱きしめ、

身体の反応が全て瑠璃子に返るようにする。

「あっ……はぁ……んっ……はぁ……んっ……」

「はぁ……んっ……はぁ……あっ……あっ……」

「はぁ……はぁ……どう? まいった?」

「んくっ……うんっ……はぁ……はぁ……まだまだっ!」

「あっ!」

艶かしい攻防が続く。

今度は上下が逆転、月葉が上になり同様に僅かに身体を揺すって責め始めた。

瑠璃子も月葉も自分の乳首が硬くなり、擦れあっていることを感じる。

「あっ……あんっ……はぁ……はっ……はっ……」

「うんっ……うくっ……あっ……・あっ……」

下になっている瑠璃子の顎が上がり始めた。

しかし月葉も表情を快楽に抵抗しようとゆがめている。

「どうですか? もう、ギブアップですか?」

「あっあっ……ノーッ……あっあっ……」

「はぁ……はぁ……でも、苦しそうですよ?」

「あっあっ……やっ……ダメッ……うんっ……」

かなり追い詰められてきた瑠璃子。

立ててある足が背伸びをして月葉の攻めに耐えかねるように喘いでしまう。

「はぁ、はっ、はっ、んっ……ギブアップ!?」

「ああっ、ああっ……ノーッ……うんっ……ああっああっ!」

「はぁっ、はぁっ、これで決まりですねっ!」

「あっあっ……こ、このまま……なら……ねっ!」

「あっ!?」

最後の勝負を賭けていた月葉だが、再び上下が逆転してしまう。

さらに瑠璃子はここで仕掛けた。

転がっている間に鯖折りの状態からマワシを吊り上げる状態に持ち込んだのだ。

下になってから月葉も同じ態勢を取る。

瑠璃子は月葉と顔をあわせることをせず、畳に額をつけ、お互いの胸を深く潰し合わせる。

「くぅっ……これで勝負っ!!」

「ああっ……あああっ!! ああっ!! あんっ!! ああっ!!」

月葉を押さえ込んでのガブリ寄り。

胸が潰しあい、乳首がこすれ、股間のマワシがお尻まで食い込み擦れあう。

月葉は焦る考えを失って快感に抗うのがやっとだ。

「どうだっ……どうだぁ……」

「ああっ……ああっ!! はっあっああっ……やっ……ダメェッ……はうっ!!」

「これでも……これでっ……お願い……イッて! お願いっ!! イッてぇぇっっ!!」

「ああっ!! あんっ!! ああっんっあっあっ……やっああっ……ああああああああっ!!!」

「…………はぁ、はぁ、はぁ……」

「……はぁ、はぁ、はぁ……ま、まいりました……私の……負けです……」

「……ギブ……アップ?」

「……ギブアップ……です……」

二人とも激しい絶頂を向かえ、ようやく決着が着いた。

月葉の上で力尽きてしまった瑠璃子は、

ぐったりしながら、なるほどと思った。

瑠璃子にとって、月葉は最上の組み易さがあるのだ。

体格も同じ。意地も同じ。力も同じ。

ただ得意なジャンルが違っただけ。

つまり、手が合いすぎたからこそ、意識せずにはいられなかったのだ。

「る、瑠璃子……先輩……どいて頂けると助かります……」

「え? ああ、ごめん……」

重い身体をようやく退かせた。

瑠璃子の押さえ込みから解放された月葉は激しい呼吸を繰り返した。

「か、完敗です……先輩の意地、見せてもらいました」

「ううん、私の土俵から始めていたし、月葉ちゃんもとても強かったわ」

「……今度は、私がリベンジをしに行く番ですね」

「ええ、待っているわ」

二人は仰向けの状態で、しっかりと手を結び合った。

恋人にはなれないけれど、この上ないライバルになれそうだ。

3−2。

紙一重で瑠璃子の勝利だ。





「……さて、休んだから行かないと」

「え? どこへですか?」

「決まっているじゃない。桃ちゃんと悠里ちゃんのところよ」

「え? 行くんですか? 私達も?」

「もちろん」

「でも、この勝負って……」

「ええ、桃ちゃんの決闘を許すっていう趣旨よ」

「それって……」

「覗かないとは一言も言っていないわ」

「……た、確かにそうですけど……」

「ルールも二人に任せちゃうしね。安全弁代わりは必要でしょ?」

「……そうですね!」

「月葉ちゃん、急ぎましょう!」

「はいっ! 瑠璃子先輩っ!!」



そして舞台は桃と悠里の決闘へ。



















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